目次
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全短歌(歌集等)
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印度の果実
流動食
水量の
いづくまで
浅き瀬に
芥とも
わだかまる
呼ぶ声の
うづ高く
乱るるは
倒れたる
会ひがたき
音の無き
はすかひに
ガラス絵の
窓にさす
若き子を
トロイメライ
戻り得ぬ
運ばれて
吸呑を
病室に
霧のなかに
緊急を
病室の
忙しき
獄中の
癒えて再び
みまかりて
薔薇あまた
向う側は
あやつりの
二十日ほどを
トランプの
03911
水量の平生に戻りてしづかなる川のほとりのおもだかの花
スイリョウノ ツネニモドリテ シヅカナル カワノホトリノ オモダカノハナ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.12
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (1)
03912
いづくまで行く魂か流木のかたちに流れつくことのあり
イヅクマデ ユクタマシヒカ リュウボクノ カタチニナガレ ツクコトノアリ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.13
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (2)
03913
浅き瀬に何のひそむやかすかなる水の濁りの見えて影無し
アサキセニ ナンノヒソムヤ カスカナル ミズノニゴリノ ミエテカゲナシ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.13
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (4)
03914
芥ともあらずときをりひるがへり流るるもののふと反照す
アクタトモ アラズトキヲリ ヒルガヘリ ナガルルモノノ フトハンショウス
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.14
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (3)
03915
わだかまる藻のかたまりに波は来て力を試すさまに引き摺る
ワダカマル モノカタマリニ ナミハキテ チカラヲタメス サマニヒキズル
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.14
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (5)
03916
呼ぶ声の水にひびかひ草むらにもう一人ゐて少年のこゑ
ヨブコエノ ミズニヒビカヒ クサムラニ モウヒトリヰテ ショウネンノコヱ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.15
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (6)
03917
うづ高く積まれし落ち葉おのづから息吐くごとしどこか崩れて
ウヅタカク ツマレシオチバ オノヅカラ イキハクゴトシ ドコカクズレテ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.15
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (7)
03918
乱るるはわがこころかと思ふまで収穫終へしキャベツの畑
ミダルルハ ワガココロカト オモフマデ シュウカクオヘシ キャベツノハタケ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.16
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (8)
03919
倒れたる萩を起こしてゐる人に振り向かれつつ歩み来にけり
タオレタル ハギヲオコシテ ヰルヒトニ フリムカレツツ アユミキニケリ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.16
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (9)
03920
会ひがたき人のみにして石仏の祠を示す道標立つ
アヒガタキ ヒトノミニシテ セキブツノ ホコラヲシメス ミチシルベタツ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.17
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (10)
03921
音の無き時間ながれて石蕗を離れし蝶のいづくへ帰る
オトノナキ ジカンナガレテ ツハブキヲ ハナレシチョウノ イヅクヘカエル
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.17
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (11)
03922
はすかひに飛べるフリスビー帰り来て黄の鳥の如く草生に沈む
ハスカヒニ トベルフリスビー カエリキテ キノトリノゴトク クサフニシズム
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.18
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (12)
03923
ガラス絵の薔薇の花びらすきとほる幾重かさねてつひに紅薔薇
ガラスエノ バラノハナビラ スキトホル イクヘカサネテ ツヒニベニバラ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.18
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (14)
03924
窓にさす陽をカーテンにやはらげて何かつりあふ思ひにゐたり
マドニサス ヒヲカーテンニ ヤハラゲテ ナニカツリアフ オモヒニヰタリ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.19
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (13)
03925
若き子を死なしめし人のおもむろに立ち直る日々を共に働く
ワカキコヲ シナシメシヒトノ オモムロニ タチナオルヒビヲ トモニハタラク
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.19
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (15)
03926
トロイメライ久しく鳴らすこともなくオルゴール置く二階の部屋に
トロイメライ ヒサシクナラス コトモナク オルゴールオク ニカイノヘヤニ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.20
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (16)
03927
戻り得ぬ家かと思ふ入院の車のバックミラーに見つつ
モドリエヌ イエカトオモフ ニュウインノ クルマノバック ミラーニミツツ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.20
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (17)
03928
運ばれて来てなす朝餉体温よりやや温かし流動食は
ハコバレテ キテナスアサゲ タイオンヨリ ヤヤアタタカシ リュウドウショクハ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.21
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (18)
03929
吸呑を濯ぎてをれば効用に合はせて作られしもののかたちよ
スヒノミヲ ススギテヲレバ コウヨウニ アハセテツクラレシ モノノカタチヨ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.21
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (19)
03930
病室にわれのみとなるときのあり滝なして降る暮れがたの雨
ビョウシツニ ワレノミトナル トキノアリ タキナシテフル クレガタノアメ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.22
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (20)
03931
霧のなかに斜塔のごとき見えながら眠りゆきたり点滴終へて
キリノナカニ シャトウノゴトキ ミエナガラ ネムリユキタリ テンテキオヘテ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.22
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (21)
03932
緊急を告げて呼ばれし医師ならむ雑音のみの放送終はる
キンキュウヲ ツゲテヨバレシ イシナラム ザツオンノミノ ホウソウオハル
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.23
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (22)
03933
病室の片隅に置くハイヒール癒えて履く日のいつとも知れず
ビョウシツノ カタスミニオク ハイヒール イエテハクヒノ イツトモシレズ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.23
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (23)
03934
忙しき職場なれども光差す場所の如くに病みをれば恋ふ
イソガシキ ショクバナレドモ ヒカリサス バショノゴトクニ ヤミヲレバコフ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.24
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (24)
03935
獄中のくらしも知らずたぐへつつ嵐の夜半をながく醒めゐる
ゴクチュウノ クラシモシラズ タグヘツツ アラシノヨワヲ ナガクサメヰル
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.24
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (25)
03936
癒えて再びこの病院を出で得なば身を粉にしてなすことのあれ
イエテフタタビ コノビョウインヲ イデエナバ ミヲコニシテ ナスコトノアレ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.25
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (26)
03937
みまかりて空きたる部屋に病む人の間なく入り来て点滴を受く
ミマカリテ アキタルヘヤニ ヤムヒトノ マナクイリキテ テンテキヲウク
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.25
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (27)
03938
薔薇あまた挿せる病室持ちて来し小さき辞書は開くことなし
バラアマタ サセルビョウシツ モチテコシ チイサキジショハ ヒラクコトナシ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.26
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (28)
03939
向う側は小児病棟子どもらのつむり幾つも並ぶことあり
ムコウガワハ シヨウニビョウトウ コドモラノ ツムリイクツモ ナラブコトアリ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.26
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (29)
03940
あやつりの糸のもつれて立ち得ずと病みつつ見たる夢のきれぎれ
アヤツリノ イトノモツレテ タチエズト ヤミツツミタル ユメノキレギレ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.27
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (31)
03941
二十日ほどを苦しみてわれの去りゆくにいのちのきはを病む人多き
ハツカボドヲ クルシミテワレノ サリユクニ イノチノキハヲ ヤムヒトオオキ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.27
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (30)
03942
トランプのうらなひをして夜にをれば隣の部屋はくらやみの箱
トランプノ ウラナヒヲシテ ヨニヲレバ トナリノヘヤハ クラヤミノハコ
『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.28
【初出】
『短歌』 1982.1 つひに紅薔薇 (32)