よしなき耳


04059
工事場に大き土管の積まれゐて吸ひ込む如しなべての音を
コウジバニ オオキドカンノ ツマレヰテ スヒコムゴトシ ナベテノオトヲ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.91
【初出】 『短歌研究』 1983.3 よしなき耳 (1)


04060
遠くより枯れ野を渡りくる人の胸のあたりに何か光らす
トオクヨリ カレノヲワタリ クルヒトノ ムネノアタリニ ナニカヒカラス

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.92
【初出】 『短歌研究』 1983.3 よしなき耳 (2)


04061
枯れ原の黒きかたまり近よれば憩へる牛は牛の大きさ
カレハラノ クロキカタマリ チカヨレバ イコヘルウシハ ウシノオオキサ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.92
【初出】 『短歌研究』 1983.3 よしなき耳 (3)


04062
電話のベル鳴りつぎゐるはどの家かよしなき耳を持ちて歩めり
デンワノベル ナリツギヰルハ ドノイエカ ヨシナキミミヲ モチテアユメリ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.93
【初出】 『短歌研究』 1983.3 よしなき耳 (4)


04063
目に見ゆるこころの如くナプキンのかたちやさしくたたまれゐたり
メニミユル ココロノゴトク ナプキンノ カタチヤサシク タタマレヰタリ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.93
【初出】 『短歌研究』 1983.3 よしなき耳 (5)


04064
異なれる世界が奥にある如し鏡に映るドアを見をれば
コトナレル セカイガオクニ アルゴトシ カガミニウツル ドアヲミヲレバ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.94
【初出】 『短歌研究』 1983.3 よしなき耳 (6)


04065
庭に来てゐたる小鳥の足あとも消しゆく雨か夜半降り出でて
ニワニキテ ヰタルコトリノ アシアトモ ケシユクアメカ ヨハフリイデテ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.94
【初出】 『短歌研究』 1983.3 よしなき耳 (7)