きゆんと泣きたき


04094
みそなはすすべなきものを喪の花の蘭は白磁のさまにしづもる
ミソナハス スベナキモノヲ モノハナノ ランハハクジノ サマニシヅモル

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.111
【初出】 『短歌研究』 1983.8 花ひしめけり (1)


04095
こまごまとちぎるる声をふり仰ぎ雲雀一羽のいづこと知れず
コマゴマト チギルルコエヲ フリアオギ ヒバリイチワノ イヅコトシレズ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.111
【初出】 『短歌研究』 1983.8 花ひしめけり (2)


04096
野を行けば水の明るさ明日知れぬいのち思はず耕すならむ
ノヲユケバ ミズノアカルサ アスシレヌ イノチオモハズ タガヤスナラム

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.112
【初出】 『短歌研究』 1983.8 花ひしめけり (3)


04097
さわだてるけはひ届かぬはろけさに椋鳥のむれはまた森へ落つ
サワダテル ケハヒトドカヌ ハロケサニ ムクドリノムレハ マタモリヘオツ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.112
【初出】 『短歌研究』 1983.8 花ひしめけり (4)


04098
化のものとならむよしなきことわりを知りつつ境のあらぬ思ひす
ケノモノト ナラムヨシナキ コトワリヲ シリツツサカヒノ アラヌオモヒス

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.113
【初出】 『短歌研究』 1983.8 花ひしめけり (6)


04099
魚の血のひとすぢ水に流れ出でわが身のどこか引き絞らるる
ウヲノチノ ヒトスヂミズニ ナガレイデ ワガミノドコカ ヒキシボラルル

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.113
【初出】 『短歌研究』 1983.8 花ひしめけり (7)


04100
死火山と知れるしづけさ山頂の湖にも鱗雲は照りゐむ
シカザント シレルシヅケサ サンチョウノ ウミニモウロコ グモハテリヰム

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.114
【初出】 『短歌研究』 1983.8 花ひしめけり (5)


04101
そのままを告げよとならば声あげてきゆんと泣きたき思ひと言はむ
ソノママヲ ツゲヨトナラバ コエアゲテ キユントナキタキ オモヒトイハム

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.114
【初出】 『短歌研究』 1983.8 花ひしめけり (8)


04102
霊柩車の木蔭にながくありにしが夢に見ることもうつつを超えず
レイキュウシャノ コカゲニナガク アリニシガ ユメニミルコトモ ウツツヲコエズ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.115
【初出】 『短歌研究』 1983.8 花ひしめけり (9)


04103
アイスケーキを買ひて与へむ児もなくてポストまで来し歩みを返す
アイスケーキヲ カヒテアタヘム コモナクテ ポストマデコシ アユミヲカエス

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.115
【初出】 『短歌研究』 1983.8 花ひしめけり (10)


04104
夕刊の一紙はいまだ来てをらず花ひしめけりかなたの栗は
ユウカンノ イッシハイマダ キテヲラズ ハナヒシメケリ カナタノクリハ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.116
【初出】 『短歌研究』 1983.8 花ひしめけり (11)


04105
左手はつねに受け身か青々と茹でし水菜を絞らむとして
ヒダリテハ ツネニウケミカ アオアオト ユデシミズナヲ シボラムトシテ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.116
【初出】 『短歌研究』 1983.8 花ひしめけり (12)


04106
たんぽぽによく似し花と教へつつ目に見えてくる野芥子黄の花
タンポポニ ヨクニシハナト オシヘツツ メニミエテクル ノゲシキノハナ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.117
【初出】 『短歌研究』 1983.8 花ひしめけり (13)


04107
女の靴ワゴンの上にあふれゐき落ち葉を踏めば音のやさしさ
オンナノクツ ワゴンノウエニ アフレヰキ オチバヲフメバ オトノヤサシサ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.117
【初出】 『短歌研究』 1983.8 花ひしめけり (14)