印度の果実


04108
残さるることも幾たび夕立に袖濡らし来し喪服を吊るす
ノコサルル コトモイクタビ ユウダチニ ソデヌラシコシ モフクヲツルス

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.118
【初出】 『短歌新聞』 1983.8 印度の果実 (1)


04109
地上にていまだなすべきことあらむ戻り来りし思ひに坐る
チジョウニテ イマダナスベキ コトアラム モドリキタリシ オモヒニスワル

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.119
【初出】 『短歌新聞』 1983.8 印度の果実 (2)


04110
人のともす星にかあらむ急速に灯を殖やしゆく丘の団地は
ヒトノトモス ホシニカアラム キュウソクニ ヒヲフヤシユク オカノダンチハ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.119
【初出】 『短歌新聞』 1983.8 印度の果実 (3)


04111
うつむきて印度の果実むきをればやいばはつねにわが胸に向く
ウツムキテ インドノカジツ ムキヲレバ ヤイバハツネニ ワガムネニムク

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.120
【初出】 『短歌新聞』 1983.8 印度の果実 (5)


04112
敗れたる牛は如何にか映像は勝てる牡牛をしばらく見しむ
ヤブレタル ウシハイカニカ エイゾウハ カテルオウシヲ シバラクミシム

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.120
【初出】 『短歌新聞』 1983.8 印度の果実 (4)


04113
旧道のほとりの草に風騒ぎ雷の音の遠く聞こゆる
キュウドウノ ホトリノクサニ カゼサワギ カミナリノオトノ トオクキコユル

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.121
【初出】 『短歌新聞』 1983.8 印度の果実 (6)


04114
そよがぬ木そよぐ木あまた茂るなか夾竹桃は紅くかたまる
ソヨガヌキ ソヨグキアマタ シゲルナカ キョウチクトウハ アカクカタマル

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.121
【初出】 『短歌新聞』 1983.8 印度の果実 (7)


04115
洋館は林の奥に建ちゐしがコリー犬などいかになりけむ
ヨウカンハ ハヤシノオクニ タチヰシガ コリーケンナド イカニナリケム

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.122
【初出】 『短歌新聞』 1983.8 印度の果実 (8)


04116
語部も占部も遠く去りし世に鞠を抱けり石の狐は
カタリベモ ウラベモトオク サリシヨニ マリヲイダケリ イシノキツネハ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.122
【初出】 『短歌新聞』 1983.8 印度の果実 (9)


04117
石像のいだける琵琶の鳴り出づる夜もありにけむ風のまにまに
セキゾウノ イダケルビワノ ナリイヅル ヨモアリニケム カゼノマニマニ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.123
【初出】 『短歌新聞』 1983.8 印度の果実 (10)


04118
終りまで聞きてよりものを言ふ習ひながき勤めに培ひて来し
オワリマデ キキテヨリモノヲ イフナラヒ ナガキツトメニ ツチカヒテコシ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.123
【初出】 『短歌新聞』 1983.8 印度の果実 (11)


04119
殺気のごときひとすぢ走りすぎしのみすぐコーヒーは運ばれて来ぬ
サッキノゴトキ ヒトスヂハシリ スギシノミ スグコーヒーハ ハコバレテキヌ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.124
【初出】 『短歌新聞』 1983.8 印度の果実 (12)


04120
卓上の駱駝のランプ人の来て背中に赤き灯をともしたり
タクジョウノ ラクダノランプ ヒトノキテ セナカニアカキ ヒヲトモシタリ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.124
【初出】 『短歌新聞』 1983.8 印度の果実 (13)


04121
何事もなかりし如し球体の感じもあらで残月うかぶ
ナニゴトモ ナカリシゴトシ キュウタイノ カンジモアラデ ザンゲツウカブ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.125
【初出】 『短歌新聞』 1983.8 印度の果実 (14)