壁の絵


04142
竜胆の花を生けをれば先の世も後の世もひとり棲むかと思ふ
リンダウノ ハナヲイケヲレバ サキノヨモ ノチノヨモヒトリ スムカトオモフ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.138
【初出】 『短歌』 1985.2 壁の絵 (1)


04143
過ぎてゆく足音ばかり音あらく氷を踏むは下校の子らか
スギテユク アシオトバカリ オトアラク コオリヲフムハ ゲコウノコラカ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.139
【初出】 『短歌』 1985.2 壁の絵 (2)


04144
色の無き葡萄摘みゐる夢なりき色無き房は手に重かりき
イロノナキ ブドウツミヰル ユメナリキ イロナキフサハ テニオモカリキ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.139
【初出】 『短歌』 1985.2 壁の絵 (3)


04145
遠くまでものの見ゆる日見えざる日視界くらめて今朝は雪降る
トオクマデ モノノミユルヒ ミエザルヒ シカイクラメテ ケサハユキフル

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.140
【初出】 『短歌』 1985.2 壁の絵 (4)


04146
雪の日の逆光のなかおのづから胸に手を当つマリアの像は
ユキノヒノ ギャクコウノナカ オノヅカラ ムネニテヲアツ マリアノゾウハ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.140
【初出】 『短歌』 1985.2 壁の絵 (5)


04147
壁の絵の思はぬ隅に眼あり見られてあらむ幾つもの目に
カベノエノ オモハヌスミニ マナコアリ ミラレテアラム イクツモノメニ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.141
【初出】 『短歌』 1985.2 壁の絵 (6)


04148
棒立ちになりし白馬をゑがきたり馬の恐怖のよみがへるまで
ボウダチニ ナリシハクバヲ ヱガキタリ ウマノキョウフノ ヨミガヘルマデ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.141
【初出】 『短歌』 1985.2 壁の絵 (7)


04149
ランタンを突き出して何を見たりしや絵のなかの女はただにみひらく
ランタンヲ ツキダシテナニヲ ミタリシヤ エノナカノオンナハ タダニミヒラク

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.142
【初出】 『短歌』 1985.2 壁の絵 (8)


04150
真人間といふ言葉不意に湧きて出づ自画像に光る眼見をれば
マニンゲント イフコトバフイニ ワキテイヅ ジガゾウニヒカル マナコミヲレバ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.142
【初出】 『短歌』 1985.2 壁の絵 (9)


04151
かなしみて人は過ぎゆき足もとにゑがかれし赤き花のみそよぐ
カナシミテ ヒトハスギユキ アシモトニ ヱガカレシアカキ ハナノミソヨグ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.143
【初出】 『短歌』 1985.2 壁の絵 (11)


04152
帰りゆく一人となりて立つバスにたれかかすかにポプリ匂はす
カエリユク ヒトリトナリテ タツバスニ タレカカスカニ ポプリニオハス

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.143
【初出】 『短歌』 1985.2 壁の絵 (12)


04153
在り馴れしひとりの夕餉卓上の塩と胡椒をかそかに振りて
アリナレシ ヒトリノユウゲ タクジョウノ シオトコショウヲ カソカニフリテ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.144
【初出】 『短歌』 1985.2 壁の絵 (14)