雨の記憶


04161
くれがたに群れとぶ見ればグレナダへ僧になりにゆく鴉ならずや
クレガタニ ムレトブミレバ グレナダヘ ソウニナリニユク カラスナラズヤ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.149
【初出】 『短歌現代』 1984.1 をりをりきざす (1)


04162
すれすれにバスをよけたる草の道毒の茸もこのごろは見ず
スレスレニ バスヲヨケタル クサノミチ ドクノキノコモ コノゴロハミズ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.149
【初出】 『短歌現代』 1984.1 をりをりきざす (2)


04163
色づける羽状複葉何の木と仰ぎゐし間に音を失ふ
イロヅケル ウジョウフクヨウ ナンノキト アオギヰシマニ オトヲウシナフ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.150
【初出】 『短歌現代』 1984.1 をりをりきざす (3)


04164
思はれてゐるやうにしか振舞へずなまの感情はをりをりきざす
オモハレテ ヰルヤウニシカ フルマヘズ ナマノカンジョウハ ヲリヲリキザス

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.150
【初出】 『短歌現代』 1984.1 をりをりきざす (5)


04165
うるし塗りの細き筆などありにしが身のほとりよりさまざまに失す
ウルシヌリノ ホソキフデナド アリニシガ ミノホトリヨリ サマザマニウス

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.151
【初出】 『短歌現代』 1984.1 をりをりきざす (6)


04166
蓋を取れば裏の光りたり蓋を取るといふことを日に幾たびもする
フタヲトレバ ウラノヒカリタリ フタヲトルト イフコトヲヒニ イクタビモスル

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.151
【初出】 『短歌現代』 1984.1 をりをりきざす (7)


04167
螢ぶくろの花ほうと吹き生けむとす若かりし母のなしし如くに
ホタルブクロノ ハナホウトフキ イケムトス ワカカリシハハノ ナシシゴトクニ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.152
【初出】 『短歌現代』 1984.1 をりをりきざす (8)


04168
灯の暗き寄宿舎の冬伏せ字解くをたのしみとしたる少女期ありき
ヒノクラキ キシュクシャノフユ フセジトクヲ タノシミトシタル ショウジョキアリキ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.152
【初出】 『短歌現代』 1984.1 をりをりきざす (9)


04169
休みかと問はれてうなづき店を出づいづれ知られむ職をひきしことも
ヤスミカト トハレテウナヅキ ミセヲイヅ イヅレシラレム ショクヲヒキシコトモ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.153
【初出】 『短歌研究』 1984.1 雨の記憶 (3)


04170
雨ながらかすかに虹の浮く空と知りて歩みのあかるむ如し
アメナガラ カスカニニジノ ウクソラト シリテアユミノ アカルムゴトシ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.153
【初出】 『短歌研究』 1984.1 雨の記憶 (4)


04171
この道をゆくほかはなくカーブミラーの映す枯れ野に近づきて行く
コノミチヲ ユクホカハナク カーブミラーノ ウツスカレノニ チカヅキテユク

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.154
【初出】 『短歌研究』 1984.1 雨の記憶 (5)


04172
雨の夜は眠れぬわれとあきらむる雨の記憶はおほよそ暗し
アメノヨハ ネムレヌワレト アキラムル アメノキオクハ オホヨソクラシ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.154
【初出】 『短歌研究』 1984.1 雨の記憶 (6)


04173
煮えくり返る思ひなりしが一夜明けてたひらぎてゐるわれに愕く
ニエクリカエル オモヒナリシガ イチヤアケテ タヒラギテヰル ワレニオドロク

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.155
【初出】 『短歌研究』 1984.1 雨の記憶 (7)


04174
砂利は砂利の音たてて道におろされぬ土まみれの石幾つころがる
ジャリハジャリノ オトタテテミチニ オロサレヌ ツチマミレノイシ イクツコロガル

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.155
【初出】 『短歌研究』 1984.1 雨の記憶 (2)


04175
学びてよりはや五十年はたちながら農本主義といふを忘れず
マナビテヨリ ハヤゴジュウネンハ タチナガラ ノウホンシュギト イフヲワスレズ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.156
【初出】 『短歌現代』 1984.1 をりをりきざす (10)


04176
五百枚の原稿用紙買ひ持ちていまだ紙なる重さを運ぶ
ゴヒャクマイノ ゲンコウヨウシ カヒモチテ イマダカミナル オモサヲハコブ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.156
【初出】 『短歌現代』 1984.1 をりをりきざす (4)