目次
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全短歌(歌集等)
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風の曼陀羅
絵巻の雲
バス停の
オルゴールを
うす紙を
つばくろの
角砂糖を
をりをりに
ひとりゐは
竹籠の
紋織りの
今もなほ
値の高き
ずたずたに
吹きしまく
どのやうに
手すさびに
行きどまりの
むじな偏の
硝煙の
大いなる
幾たびも
山ありて
バスを待つ
失くし来し
透かし見て
04177
バス停の標識白く点るころラマ僧二人いづこへ帰る
バステイノ ヒョウシキシロク トモルコロ ラマソウフタリ イヅコヘカエル
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.13
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (25)
04178
オルゴールを閉づれば戻るしじまありよはひは既に乱を好まず
オルゴールヲ トヅレバモドル シジマアリ ヨハヒハスデニ ランヲコノマズ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.13
04179
うす紙をはさみて椀を積みをれば禁忌事項の数あるごとし
ウスガミヲ ハサミテワンヲ ツミヲレバ キンキジコウノ カズアルゴトシ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.14
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (1)
04180
つばくろの低く飛ぶ日は雨と言ひ母もさびしく留守を守りけむ
ツバクロノ ヒククトブヒハ アメトイヒ ハハモサビシク ルスヲモリケム
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.14
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (3)
04181
角砂糖を詰めむとするにかどばりて空間寒しガラスの壺は
カクザトウヲ ツメムトスルニ カドバリテ クウカンサムシ ガラスノツボハ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.14
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (4)
04182
をりをりに行くわが意識冷蔵庫に大きザボンを一つ持てれば
ヲリヲリニ ユクワガイシキ レイゾウコニ オオキザボンヲ ヒトツモテレバ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.15
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (7)
04183
ひとりゐはめぐり冷えゐる日の多し絵巻の雲の不意にひろがる
ヒトリヰハ メグリヒエヰル ヒノオオシ エマキノクモノ フイニヒロガル
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.15
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (8)
04184
竹籠の網のまばらをはみ出でて生椎茸は茸の匂ひ
タケカゴノ アミノマバラヲ ハミイデテ ナマシイタケハ キノコノニオヒ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.15
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (5)
04185
紋織りの薔薇の模様はかすかなる翳なして白のテーブルクロス
モンオリノ バラノモヨウハ カスカナル カゲナシテシロノ テーブルクロス
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.16
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (9)
04186
今もなほ俗名に呼びて語り合ふ逝きて六年たちたる人を
イマモナホ ゾクミョウニヨビテ カタリアフ ユキテロクネン タチタルヒトヲ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.16
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (10)
04187
値の高き古書の噂をして行けり人それぞれのよろこびを持つ
ネノタカキ コショノウワサヲ シテユケリ ヒトソレゾレノ ヨロコビヲモツ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.16
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (11)
04188
ずたずたになる思ひせり天幕の切れめに風のふためく見居て
ズタズタニ ナルオモヒセリ テンマクノ キレメニカゼノ フタメクミイテ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.17
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (12)
04189
吹きしまく砂塵にまなこ閉ぢをればめくれてゆけり野原一枚
フキシマク サジンニマナコ トヂヲレバ メクレテユケリ ノハライチマイ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.17
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (13)
04190
どのやうに立つ牛ならむ立つときを忘れしさまに反芻みやまず
ドノヤウニ タツウシナラム タツトキヲ ワスレシサマニ ニレカミヤマズ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.17
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (14)
04191
手すさびに拾ひたれども石は石の重さに土の匂ひをまとふ
テスサビニ ヒロヒタレドモ イシハイシノ オモサニツチノ ニオヒヲマトフ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.18
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (15)
04192
行きどまりの垣にからみて鉄線の大き紫かがよひゐたり
ユキドマリノ カキニカラミテ テッセンノ オオキムラサキ カガヨヒヰタリ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.18
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (16)
04193
むじな偏の貌といふ字を書きをれば人間といふ不可解のもの
ムジナヘンノ カオトイフジヲ カキヲレバ ニンゲントイフ フカカイノモノ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.18
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (18)
04194
硝煙の臭ひといふを手花火に嗅ぎつつ子らは怖れを知らず
ショウエンノ ニオヒトイフヲ テハナビニ カギツツコラハ オソレヲシラズ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.19
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (17)
04195
大いなるスパナの形と気づきたり何を恐れて見し夢ならむ
オオイナル スパナノカタチト キヅキタリ ナニヲオソレテ ミシユメナラム
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.19
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (19)
04196
幾たびもかけかへられし大橋に人柱とふ言葉も古りぬ
イクタビモ カケカヘラレシ オオハシニ ヒトバシラトフ コトバモフリヌ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.19
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (22)
04197
山ありて谷ありて人は生くるとふいま目の前は桜のふぶき
ヤマアリテ タニアリテヒトハ イクルトフ イマメノマエハ サクラノフブキ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.20
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (21)
04198
バスを待つ列に喪服の人のをり糸引きて雨は菜の花に降る
バスヲマツ レツニモフクノ ヒトノヲリ イトヒキテアメハ ナノハナニフル
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.20
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (23)
04199
失くし来しライター思へば窓口の孔雀羊歯の鉢も目によみがへる
ナクシコシ ライターオモヘバ マドグチノ クジャクシダノハチモ メニヨミガヘル
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.20
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (24)
04200
透かし見て手漉きの和紙を買ひたればまだらを胸にいだく心地す
スカシミテ テスキノワシヲ カヒタレバ マダラヲムネニ イダクココロチス
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.21
【初出】
『短歌現代』 1987.8 絵巻の雲 (20)