波の章


04201
まかり来て雨光る道亡き人はもう蝙蝠傘を差すこともなし
マカリキテ アメヒカルミチ ナキヒトハ モウカウモリヲ サスコトモナシ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.22
【初出】 『短歌』 1988.2 波の章 (1)


04202
連想の貧しき日にて目の前に撒き散らされし雀の十羽
レンソウノ マズシキヒニテ メノマエニ マキチラサレシ スズメノジッパ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.22
【初出】 『短歌』 1988.2 波の章 (2)


04203
はるかなる岬の札所は思ふのみ雨にけむれる海を見てゐる
ハルカナル ミサキノフダショハ オモフノミ アメニケムレル ウミヲミテヰル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.23
【初出】 『短歌』 1988.2 波の章 (3)


04204
石英のきはだちて光る角度あり岩の露頭をめぐりて行けば
セキエイノ キハダチテヒカル カクドアリ イワノロトウヲ メグリテユケバ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.23
【初出】 『短歌』 1988.2 波の章 (4)


04205
浜茄子は乱れて茂り川幅のややせばまりて真水をとほす
ハマナスハ ミダレテシゲリ カワハバノ ヤヤセバマリテ マミズヲトホス

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.23
【初出】 『短歌』 1988.2 波の章 (5)


04206
いかほどの時間がたちて地中よりにじみ出でたり紅の茸は
イカホドノ ジカンガタチテ チチュウヨリ ニジミイデタリ ベニノキノコハ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.24
【初出】 『短歌』 1988.2 波の章 (6)


04207
藻屑燃す煙の遠くなづさへば北京原人が焚きし火思ふ
モクズモス ケムリノトオク ナヅサヘバ シナントロプスガ タキシヒオモフ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.24
【初出】 『短歌』 1988.2 波の章 (7)


04208
幅広き一枚となりて立ちあがる波見てあればとめどもあらず
ハバヒロキ イチマイトナリテ タチアガル ナミミテアレバ トメドモアラズ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.24
【初出】 『短歌』 1988.2 波の章 (8)


04209
思はざる罠もあるべし青潮に乗りたるサーフ忽ち崩る
オモハザル ワナモアルベシ アオシオニ ノリタルサーフ タチマチクズル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.25
【初出】 『短歌』 1988.2 波の章 (9)


04210
沖縄の何のゆかりに魔除獅子を屋根に置きゐるレストランあり
オキナワノ ナンノユカリニ シーサーヲ ヤネニオキヰル レストランアリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.25
【初出】 『短歌』 1988.2 波の章 (10)


04211
まざまざと或る日の午餐思ひたり洋斧の茎の辛きを嚙めば
マザマザト アルヒノゴサン オモヒタリ クレソンノクキノ カラキヲカメバ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.25
【初出】 『短歌』 1988.2 波の章 (11)


04212
夜に入りて覆ひをすれば音の無き直方体となる鳥の籠
ヨニイリテ オオヒヲスレバ オトノナキ チョクホウタイト ナルトリノカゴ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.26
【初出】 『短歌』 1988.2 波の章 (12)


04213
五衰とふ衰亡の相ありといふわれに咀嚼の力衰ふ
ゴスイトフ スイボウノソウ アリトイフ ワレニソシャクノ チカラオトロフ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.26
【初出】 『短歌』 1988.2 波の章 (13)


04214
風の吹く日ものちの夜も身に残る糸ひとすぢの力にてよし
カゼノフク ヒモノチノヨモ ミニノコル イトヒトスヂノ チカラニテヨシ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.26
【初出】 『短歌』 1988.2 波の章 (14)