目次
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全短歌(歌集等)
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風の曼陀羅
雨の音する
ヘッドライトに
屋上の
みづからの
病みがちに
竹似草
廃線の
散らばれる
発掘の
稲藁を
こだまにも
梅園を
堪へ切れず
雪どけに
県境の
瓶の形を
日だまりの
種を採る
学用品の
犬を曳く
膝つきて
04278
ヘッドライトに照らし出さるる夜の坂往きに見ざりし木が立ちあがる
ヘッドライトニ テラシダサルル ヨルノサカ ユキニミザリシ キガタチアガル
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.55
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (1)
04279
屋上の灯のともりゐるところまで昇りつめたる目をひき戻す
オクジョウノ ヒノトモリヰル トコロマデ ノボリツメタル メヲヒキモドス
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.55
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (2)
04280
みづからの肩に清めの塩を振るいまだ生なる身を帰り来て
ミヅカラノ カタニキヨメノ シオヲフル イマダナマナル ミヲカエリキテ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.56
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (3)
04281
病みがちに指美しき人なりきその指を組みて旅立ちましぬ
ヤミガチニ ユビウツクシキ ヒトナリキ ソノユビヲクミテ タビダチマシヌ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.56
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (4)
04282
竹似草刈られて広き川提胸のあばらも透くごとき日よ
タケニグサ カラレテヒロキ カワヅツミ ムネノアバラモ スクゴトキヒヨ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.56
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (5)
04283
廃線のレールのほとり散りそむるあり咲き出づるありて白梅
ハイセンノ レールノホトリ チリソムル アリサキイヅル アリテシラウメ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.57
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (6)
04284
散らばれる親馬仔馬子供らのゑがく仔馬はいたく小さし
チラバレル オヤウマコウマ コドモラノ ヱガクコウマハ イタクチイサシ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.57
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (7)
04285
発掘のあとをそのまま霜枯れて風に打たるる目じるしの旗
ハックツノ アトヲソノママ シモカレテ カゼニウタルル メジルシノハタ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.57
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (8)
04286
稲藁を焚きゐる塚はひとしきりのろしの如き煙あげたり
イナワラヲ タキヰルツカハ ヒトシキリ ノロシノゴトキ ケムリアゲタリ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.58
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (9)
04287
こだまにも遅速のありてはるかなる雑木の山も芽ぐまむころか
コダマニモ チソクノアリテ ハルカナル ゾウキノヤマモ メグマムコロカ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.58
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (10)
04288
梅園をくぐりて来れば絵馬堂の絵馬は木の音立てて吹かるる
バイエンヲ クグリテクレバ エマドウノ エマハキノオト タテテフカルル
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.58
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (11)
04289
堪へ切れず垂るると如く中天を撓めてゆけり航跡雲は
タヘキレズ タルルトゴトク チュウテンヲ タワメテユケリ コウセキウンハ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.59
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (12)
04290
雪どけに濁れるを見て去らむとす澄みゆくまでの時間も知らず
ユキドケニ ニゴレルヲミテ サラムトス スミユクマデノ ジカンモシラズ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.59
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (13)
04291
県境の村はたちまち暮れゆきて夜に見る梅はつぶつぶの白
ケンザカヒノ ムラハタチマチ クレユキテ ヨニミルウメハ ツブツブノシロ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.59
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (14)
04292
瓶の形をそのまま包める持ちものを横にして膝に置けり少女は
ビンノカタチヲ ソノママクルメル モチモノヲ ヨコニシテヒザニ オケリショウジョハ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.60
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (15)
04293
日だまりの斑雪を掻きてゐたりしが首立てて鳴く牝鶏一羽
ヒダマリノ ハダレヲカキテ ヰタリシガ クビタテテナク メンドリイチワ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.60
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (16)
04294
種を採る菜のみひと畝残されて匂ふばかりの黒土となる
タネヲトル ナノミヒトウネ ノコサレテ ニオフバカリノ クロツチトナル
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.60
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (17)
04295
学用品の広告が今朝も配られぬ太郎も次郎もあらぬわが家に
ガクヨウヒンノ コウコクガケサモ クバラレヌ タロウモジロウモ アラヌワガヤニ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.61
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (18)
04296
犬を曳く少年が行き夕刊の薄きが届き冬の日暮れぬ
イヌヲヒク ショウネンガユキ ユウカンノ ウスキガトドキ フユノヒクレヌ
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.61
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (19)
04297
膝つきてボタンつけをればいつの日の夕べにか似て雨の音する
ヒザツキテ ボタンツケヲレバ イツノヒノ ユウベニカニテ アメノオトスル
『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.61
【初出】
『歌壇』 1987.5 雨の音する (20)