うすづきそめぬ


04310
三叉路を折り返しくるバスが見ゆ遠く辛夷の咲くを見をれば
サンサロヲ オリカエシクル バスガミユ トオクコブシノ サクヲミヲレバ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.67
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (1)


04311
壁面に水をあびせて洗ひをりルミノール反応などは出でずや
ヘキメンニ ミズヲアビセテ アラヒヲリ ルミノールハンノウ ナドハイデズヤ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.67
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (2)


04312
何者の去りし歩幅か枯れ草に大き礎石の十ばかり浮く
ナニモノノ サリシホハバカ カレクサニ オオキソセキノ トヲバカリウク

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.68
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (3)


04313
大正の生き残りとててのひらにこぼしつつ食む雛のあられを
タイショウノ イキノコリトテ テノヒラニ コボシツツハム ヒナノアラレヲ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.68
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (4)


04314
合はせたるグラスの音のかそかにてこの世を去らむ順など知れず
アハセタル グラスノオトノ カソカニテ コノヨヲサラム ジュンナドシレズ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.68
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (5)


04315
七階の窓よりゆくりなく見たる町の釣堀は瓢のかたち
シチカイノ マドヨリユクリ ナクミタル マチノツリボリハ ヒサゴノカタチ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.69
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (6)


04316
癒えしとふあかしもなくて今日来れば道は一気に葉桜となる
イエシトフ アカシモナクテ キョウクレバ ミチハイッキニ ハザクラトナル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.69
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (7)


04317
思はざる会話聞こえて二人ともガダルカナルの生き残りとぞ
オモハザル カイワキコエテ フタリトモ ガダルカナルノ イキノコリトゾ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.69
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (8)


04318
咲きほほけしたんぽぽの土手人の名をかぶせて残る橋も古りゐつ
サキホホケシ タンポポノドテ ヒトノナヲ カブセテノコル ハシモフリヰツ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.70
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (9)


04319
渇水にあらはとなれるダムの底この世のものともあらず渇けり
カッスイニ アラハトナレル ダムノソコ コノヨノモノトモ アラズカワケリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.70
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (10)


04320
一輛のみの電車が行けり朝市は枡もて測り青梅を売る
イチリョウノミノ デンシャガユケリ アサイチハ マスモテハカリ アオウメヲウル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.70
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (11)


04321
アレルゲンと今は知りたる鶏卵の積まれゐてわれを誘くことあり
アレルゲント イマハシリタル ケイランノ ツマレヰテワレヲ オビクコトアリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.71
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (12)


04322
庭園の木の名草の名一つづつ読み来て棉の花咲くに会ふ
テイエンノ キノナクサノナ ヒトツヅツ ヨミキテワタノ ハナサクニアフ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.71
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (13)


04323
白骨となりても遂げむことありや水に押されて水動きをり
シラホネト ナリテモトゲム コトアリヤ ミズニオサレテ ミズウゴキヲリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.71
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (14)


04324
河はらの水もたそがれそめたればをはりに犬のための石積む
カワハラノ ミズモタソガレ ソメタレバ ヲハリニイヌノ タメノイシツム

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.72
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (15)


04325
マンションのはざまの狭きくらがりに夕べを遊ぶ子らの声する
マンションノ ハザマノセマキ クラガリニ ユウベヲアソブ コラノコエスル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.72
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (16)


04326
紫のキャベツほどにも太らせし思ひなれどもうすづきそめぬ
ムラサキノ キャベツホドニモ フトラセシ オモヒナレドモ ウスヅキソメヌ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.72
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (17)


04327
手花火に大き頭部の影立つは須臾にして元のブロックの谷
テハナビニ オオキトウブノ カゲタツハ シュユニシテモトノ ブロックノタニ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.73
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (18)


04328
ノースリーブの肩やや寒し呪の塩の積まれてひそと戸口ありたり
ノースリーブノ カタヤヤサムシ ジユノシオノ ツマレテヒソト トグチアリタリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.73
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (19)


04329
思はざる柾目の木の香匂ひたり赤鉛筆を削りてをれば
オモハザル マサメノキノカ ニオヒタリ アカエンピツヲ ケズリテヲレバ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.73
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (20)


04330
目を覚ますみどり児がゐるにあらねども音をしのびて湯を浴みてをり
メヲサマス ミドリゴガヰルニ アラネドモ オトヲシノビテ ユヲアミテヲリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.74
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (21)


04331
断水を告げゆく広報車の過ぎて町のいづこかざわめきはじむ
ダンスイヲ ツゲユクコウホウ シャノスギテ マチノイヅコカ ザワメキハジム

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.74
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (22)


04332
かたまりて沼のくらがりに眠るらむ眠れぬ鴨はどうするならむ
カタマリテ ヌマノクラガリニ ネムルラム ネムレヌカモハ ドウスルナラム

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.74
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (23)


04333
もろびとに祈りはありて雨のなか茅の輪くぐりの賑はへりとぞ
モロビトニ イノリハアリテ アメノナカ チノワクグリノ ニギハヘリトゾ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.75
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (24)


04334
待ち針をさし替へをれば人の世のおほよそはすでに身を過ぎてをり
マチバリヲ サシカヘヲレバ ヒトノヨノ オホヨソハスデニ ミヲスギテヲリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.75
【初出】 『短歌現代』 1988.9 うすづきそめぬ (25)