北に十里


04335
毛の国も春ならむとす大き弧をゑがきつつ啼く鳶一羽ゐて
ケノクニモ ハルナラムトス オオキコヲ ヱガキツツナク トビイチワヰテ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.79
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (1)


04336
中空にちりぢりにゐる椋鳥ら今年は殖えて何狙ふらむ
ナカゾラニ チリヂリニヰル ムクドリラ コトシハフエテ ナニネラフラム

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.79
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (2)


04337
高校に何のありしや次々に黒の制服たむろして来る
コウコウニ ナンノアリシヤ ツギツギニ クロノセイフク タムロシテクル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.80
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (3)


04338
手相といひ人相といひ変へ難く苦しきものを人は持ちあふ
テソウトイヒ ニンソウトイヒ カヘガタク クルシキモノヲ ヒトハモチアフ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.80
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (4)


04339
青竹のいたく太きを五、六本載せしトラック右折しゆけり
アオダケノ イタクフトキヲ ゴロッポン ノセシトラック ウセツシユケリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.80
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (5)


04340
雨のなき数日すぎて葉牡丹のふちのレースのうすくよごれぬ
アメノナキ スウジツスギテ ハボタンノ フチノレースノ ウスクヨゴレヌ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.81
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (6)


04341
何事かみちびく声に今日の鴉八咫の烏のごとく飛ぶなり
ナニゴトカ ミチビクコエニ キョウノカラス ヤタノカラスノ ゴトクトブナリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.81
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (7)


04342
起死回生のカードの未だ残りゐる思ひにをりふしポストをのぞく
キシカイセイノ カードノイマダ ノコリヰル オモヒニヲリフシ ポストヲノゾク

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.81
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (8)


04343
逆算してやうやくわかる支出ありまれに紙幣をそろへむとして
ギャクサンシテ ヤウヤクワカル シシュツアリ マレニシヘイヲ ソロヘムトシテ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.82
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (9)


04344
思ひ立つはいつも夜にて五年前の雑誌はいづこに潜みてあらむ
オモヒタツハ イツモヨルニテ ゴネンマエノ ザッシハイヅコニ ヒソミテアラム

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.82
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (10)


04345
仇を討つごとき思ひにむきになりて仕事をしたる年月ありき
アダヲウツ ゴトキオモヒニ ムキニナリテ シゴトヲシタル トシツキアリキ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.82
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (11)


04346
アイロンのコードにつまづきたりしつつげに動かせぬものばかりなる
アイロンノ コードニツマヅキ タリシツツ ゲニウゴカセヌ モノバカリナル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.83
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (12)


04347
見つからざりし巻尺が今出でて来て一メートル五〇まで伸びて見す
ミツカラザリシ マキジャクガイマ イデテキテ イチメートルゴジュウ マデノビテミス

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.83
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (13)


04348
あした着る衣服確かめ眠らむに夜空は遠く風の音する
アシタキル イフクタシカメ ネムラムニ ヨゾラハトオク カゼノオトスル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.83
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (14)


04349
雪の日のアーケード街亡き歌手の尾を曳くやうな唄を流せり
ユキノヒノ アーケードガイ ナキカシュノ オヲヒクヤウナ ウタヲナガセリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.84
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (15)


04350
停止せる時間のごとし大小の白磁の皿がセットされゐて
テイシセル ジカンノゴトシ ダイショウノ ハクジノサラガ セットサレヰテ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.84
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (16)


04351
シャーベットを卓上に置き二人ゐても三人ゐてもさびしき齢
シャーベットヲ タクジョウニオキ フタリヰテモ サンニンヰテモ サビシキヨハヒ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.84
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (17)


04352
くらがりを怖るるとにもあらねども未だなまなる部分持ちあふ
クラガリヲ オソルルトニモ アラネドモ イマダナマナル ブブンモチアフ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.85
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (18)


04353
界隈の子らみな育ち二十糎ほどなる雪のそのまましづか
カイワイノ コラミナソダチ ニジュツセンチ ホドナルユキノ ソノママシヅカ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.85
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (19)


04354
東京は春一番が吹けりとぞ北に十里のここはしづけき
トウキョウハ ハルイチバンガ フケリトゾ キタニジュウリノ ココハシヅケキ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.85
【初出】 『歌壇』 1990.5 北に十里 (20)