われのひもろぎ


04402
沖遠く澄む朝なれば旗立てて八幡船など渡りゆかずや
オキトオク スムアサナレバ ハタタテテ バハンセンナド ワタリユカズヤ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.104
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (1)


04403
甲斐へ抜くる道がひとすぢありといふ片栗の咲くころには思ふ
カイヘヌクル ミチガヒトスヂ アリトイフ カタクリノサク コロニハオモフ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.104
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (2)


04404
無数の手が今し動きて灯をともす刻限ならめ暮れて来にけり
ムスウノテガ イマシウゴキテ ヒヲトモス コクゲンナラメ クレテキニケリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.105
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (3)


04405
黄の菊を承和菊と呼ぶ伝承を今に伝へて山峡の里
キノキクヲ ソガギクトヨブ デンショウヲ イマニツタヘテ ヤマカイノサト

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.105
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (4)


04406
思ほえずいのちを得たるわれにして古りし海図にまたまみえたり
オモホエズ イノチヲエタル ワレニシテ フリシカイズニ マタマミエタリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.105
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (5)


04407
犬たちに匂ひの地図のありといふゆつたりとをり老いたる犬は
イヌタチニ ニオヒノチズノ アリトイフ ユツタリトヲリ オイタルイヌハ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.106
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (6)


04408
待つ人もをらぬ家路と思へども日のくれぎはの川の明るさ
マツヒトモ ヲラヌイエジト オモヘドモ ヒノクレギハノ カワノアカルサ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.106
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (7)


04409
幅の無き橋にかあらむ子供らは縦一列に渡りて行けり
ハバノナキ ハシニカアラム コドモラハ タテイチレツニ ワタリテユケリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.106
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (8)


04410
何もかも詰め込むやうに詰め込みて運び去られつ落ち葉の籠は
ナニモカモ ツメコムヤウニ ツメコミテ ハコビサラレツ オチバノカゴハ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.107
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (9)


04411
木の椅子に待たされをればときじくの何か言葉のごとし風花
キノイスニ マタサレヲレバ トキジクノ ナニカコトバノ ゴトシカザハナ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.107
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (10)


04412
橋下の風に煽られ幾ひらか鴉の黒も吹き上げられぬ
ハシシタノ カゼニアオラレ イクヒラカ カラスノクロモ フキアゲラレヌ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.107
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (11)


04413
ただの岩の円錐形と見てをれど水を引き寄せまた引き離す
タダノイワノ エンスイケイト ミテヲレド ミズヲヒキヨセ マタヒキハナス

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.108
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (12)


04414
風景の遠くにありていつまでも見えゐるポプラわれのひもろぎ
フウケイノ トオクニアリテ イツマデモ ミエヰルポプラ ワレノヒモロギ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.108
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (13)


04415
冷蔵庫の棚にころがしおく柚子の二粒となり冬最中なる
レイゾウコノ タナニコロガシ オクユズノ フタツブトナリ フユサナカナル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.108
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (14)


04416
両親の如何なるときか小屋を据ゑ鶏四五羽飼ひし日ありき
リョウシンノ イカナルトキカ コヤヲスヱ ニワトリシゴワ カヒシヒアリキ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.109
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (15)


04417
扇状地といへる地形は黒板にゑがかれし図のままに忘れず
センジョウチト イヘルチケイハ コクバンニ ヱガカレシズノ ママニワスレズ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.109
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (16)


04418
白梅のはじけそめたる寒さにて振り返らずに犬は行きけり
シラウメノ ハジケソメタル サムサニテ フリカエラズニ イヌハユキケリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.109
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (17)


04419
男をみなのけぢめも分かず水いろのアノラック着てみな向かう向き
ヲトコヲミナノ ケヂメモワカズ ミズイロノ アノラックキテ ミナムカウムキ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.110
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (18)


04420
風上に立ちゐて声は聞こえねど口がうごきて何か言ひをり
カザカミニ タチヰテコエハ キコエネド クチガウゴキテ ナニカイヒヲリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.110
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (19)


04421
枝先を細くほぐしてこの三月なんの冬木となく立ち尽くす
エダサキヲ ホソクホグシテ コノミツキ ナンノフユギト ナクタチツクス

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.110
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (20)


04422
すみずみまで空よく晴れて午後となる雨水近きを思ひてをれば
スミズミマデ ソラヨクハレテ ゴゴトナル ウスイチカキヲ オモヒテヲレバ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.111
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (21)


04423
紅梅の色よりあはくくれなゐの鋏を垂れて咲く花のあり
コウバイノ イロヨリアハク クレナヰノ ハサミヲタレテ サクハナノアリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.111
【初出】 『短歌往来』 1989.4 迷わずに落つ (22)