衛星都市


04572
はだしにて追ふこともわれはせざりしとドラマの沙漠見をれば思ふ
ハダシニテ オフコトモワレハ セザリシト ドラマノサバク ミヲレバオモフ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.177
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (1)


04573
お百度を踏みて回るといふ石の大きくて定かな形をなさず
オヒャクドヲ フミテマワルト イフイシノ オオキクテサダカナ カタチヲナサズ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.177
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (2)


04574
巻きものを巻き終はりたる指先に視線あつめて若き尼僧は
マキモノヲ マキオハリタル ユビサキニ シセンアツメテ ワカキニソウハ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.178
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (3)


04575
くらがりに拡大されて一本の糸ももつれず烏瓜咲く
クラガリニ カクダイサレテ イツポンノ イトモモツレズ カラスウリサク

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.178
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (4)


04576
結論的に思ひたることわれひとり動かずにさへをれば見られず
ケツロンテキニ オモヒタルコト ワレヒトリ ウゴカズニサヘ ヲレバミラレズ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.178
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (5)


04577
握りゐる木の実の一個あたためてどんぐりをわれは何に孵さむ
ニギリヰル コノミノイッコ アタタメテ ドングリヲワレハ ナニニカヘサム

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.179
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (6)


04578
ゆるやかに坂になりゐるバス通りバスをよけむと身をよぢりたり
ユルヤカニ サカニナリヰル バスドオリ バスヲヨケムト ミヲヨヂリタリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.179
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (7)


04579
駅のあたり目に見えて高層となるばかり衛星都市といはるる町は
エキノアタリ メニミエテコウソウト ナルバカリ エイセイトシト イハルルマチハ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.179
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (8)


04580
目じるしの橋はプレートのみとなり列なして車が流れてゐたり
メジルシノ ハシハプレート ノミトナリ レツナシテクルマガ ナガレテヰタリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.180
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (9)


04581
並びたるダンプカーの若き横顔はそのまま青の信号となる
ナラビタル ダンプカーノワカキ ヨコガオハ ソノママアオノ シンゴウトナル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.180
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (10)


04582
近づけば眼鏡光りてからしいろの秋のスーツがよく似合ひたり
チカヅケバ メガネヒカリテ カラシイロノ アキノスーツガ ヨクニアヒタリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.180
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (11)


04583
てのひらに何の疲れか残りをり軍服のいろの夢より覚めて
テノヒラニ ナンノツカレカ ノコリヲリ グンプクノイロノ ユメヨリサメテ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.181
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (12)


04584
スカートのひだをたたみて寝押しすと余念なかりし夜毎の少女
スカートノ ヒダヲタタミテ ネオシスト ヨネンナカリシ ヨゴトノオトメ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.181
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (13)


04585
人間をやめたいと言ひてきかざるをもて余しつつ一夜ありにき
ニンゲンヲ ヤメタイトイヒテ キカザルヲ モテアマシツツ ヒトヨアリニキ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.181
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (14)


04586
ミッションの女学校が遠く見えゐしが霜深からむ盆地の町は
ミッションノ ジョガッコウガトオク ミエヰシガ シモフカカラム ボンチノマチハ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.182
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (15)


04587
徴発に馬もとられてふるさとに闇深かりし曲がり屋思ふ
チョウハツニ ウマモトラレテ フルサトニ ヤミフカカリシ マガリヤオモフ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.182
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (16)


04588
夜半に発ちて帰らぬ友軍ありしとぞ終戦近き半島にして
ヨワニタチテ カエラヌユウグン アリシトゾ シュウセンチカキ ハントウニシテ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.182
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (17)


04589
婉曲に言ひたりしかば伝はらず伝はらざりしことに安らふ
エンキョクニ イヒタリシカバ ツタハラズ ツタハラザリシ コトニヤスラフ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.183
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (18)


04590
二人だけの言葉をピアノと交はすやうに調律師はをり二時間ほどを
フタリダケノ コトバヲピアノト カハスヤウニ チョウリツシハヲリ ニジカンホドヲ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.183
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (19)


04591
乳母車にみどりごは居ずみどりごを抜きたる跡のふつくら窪む
ウバグルマニ ミドリゴハイズ ミドリゴヲ ヌキタルアトノ フツクラクボム

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.183
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (20)


04592
底深く蛇行してゐる川と会ふつね水ばかり見つつ渡るに
ソコフカク ダコウシテヰル カワトアフ ツネミズバカリ ミツツワタルニ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.184
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (21)


04593
幼子の睦めるさまに追ふごとく追はるるごとく家鴨の四五羽
オサナゴノ ムツメルサマニ オフゴトク オハルルゴトク アヒルノシゴワ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.184
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (22)


04594
共に行きて袖をよごしし山百合の花粉の痕は今に残れる
トモニユキテ ソデヲヨゴシシ ヤマユリノ カフンノアトハ イマニノコレル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.184
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (23)


04595
養蜂の旅をいつよりやめにけむ幼子を曳きてスーパーにゐる
ヨウホウノ タビヲイツヨリ ヤメニケム オサナゴヲヒキテ スーパーニヰル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.185
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (24)


04596
過ぎにしやこののちなりや断崖に立つ日のありといふ占ひは
スギニシヤ コノノチナリヤ ダンガイニ タツヒノアリト イフウラナヒハ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.185
【初出】 『短歌現代』 1991.1 衛星都市 (25)