ひとりぐらゐは


04597
夫とわれと共に働く生活の七年にして或る日終はりき
ツマトワレト トモニハタラク セイカツノ シチネンニシテ アルヒオハリキ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.186
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (1)


04598
けものみちをあらはに見せて風が吹くただ熊笹の音のみのして
ケモノミチヲ アラハニミセテ カゼガフク タダクマザサノ オトノミノシテ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.186
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (2)


04599
出土せる黄金の鐙見むと言ひ旅びとは今日も駅に溢るる
シュツドセル ワウゴンノアブミ ミムトイヒ タビビトハキョウモ エキニアフルル

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.187
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (3)


04600
すれすれに地上を飛べる子雀も次第に角度をあげてゆくらむ
スレスレニ チジョウヲトベル コスズメモ シダイニカクドヲ アゲテユクラム

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.187
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (4)


04601
風立てば幹ながら木を傾けて振り落とす如き楓もみぢ葉
カゼタテバ ミキナガラキヲ カタムケテ フリオトスゴトキ カエデモミヂハ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.187
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (5)


04602
園児らの三分の一ほど残されて踏切の手前しばし賑はふ
エンジラノ サンブンノイチホド ノコサレテ フミキリノテマエ シバシニギハフ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.188
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (6)


04603
料亭の建仁寺垣に沿ひて来て曇り日が似合ふ町と思ひぬ
リョウテイノ ケンニンジガキニ ソヒテキテ クモリビガニアフ マチトオモヒヌ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.188
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (7)


04604
家並みを貫きて通るハイウエイの高さに桐は実を掲げゐつ
イエナミヲ ツラヌキテトオル ハイウエイノ タカサニキリハ ミヲカカゲヰツ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.188
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (8)


04605
停留所は落ち葉日溜まり癒えてまた立つ日のありと思はざりけり
テイリュウジョハ オチバヒダマリ イエテマタ タツヒノアリト オモハザリケリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.189
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (9)


04606
机より咄嗟に立ちて来し厨白粥の湯気に眼鏡くもらす
ツクエヨリ トツサニタチテ コシクリヤ シラカユノユゲニ メガネクモラス

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.189
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (10)


04607
何ほどの予知能力を持つ鳥か病みゐて鴉を怖れし日あり
ナニホドノ ヨチノウリョクヲ モツトリカ ヤミヰテカラスヲ オソレシヒアリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.189
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (11)


04608
駅前の大小のビルが浮かびたり「街」といふ字を見詰めてあれば
エキマエノ ダイショウノビルガ ウカビタリ マチトイフジヲ ミツメテアレバ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.190
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (12)


04609
多分夢と思ひつつなほ走りたり逃げても逃げてもつかまりさうで
タブンユメト オモヒツツナホ ハシリタリ ニゲテモニゲテモ ツカマリサウデ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.190
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (13)


04610
歌に知る消息にして仙台のアカンサスは今年咲かざりしとぞ
ウタニシル ショウソクニシテ センダイノ アカンサスハコトシ サカザリシトゾ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.190
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (14)


04611
冬服のベストを着たる少女たちセーラー服は少なくなりぬ
フユフクノ ベストヲキタル ショウジョタチ セーラーフクハ スクナクナリヌ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.191
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (15)


04612
港まちの教師をしをれば鯨長者の娘もゐたりきわが教室に
ミナトマチノ キョウシヲシヲレバ クジラチョウジャノ ムスメモヰタリキ ワガキョウシツニ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.191
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (16)


04613
使ひふるしし物ばかりなる身のほとりメジャーはすぐに捩れてしまふ
ツカヒフルシシ モノバカリナル ミノホトリ メジャーハスグニ ネジレテシマフ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.191
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (17)


04614
北を指し飛ぶ一番機敵機かと目ざめて今も思ふことあり
キタヲサシ トブイチバンキ テキキカト メザメテイマモ オモフコトアリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.192
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (18)


04615
クリークに落ちてかへらぬ兵ありき同級の一人なれば忘れず
クリークニ オチテカヘラヌ ヘイアリキ ドウキュウノヒトリ ナレバワスレズ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.192
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (19)


04616
根の国にみんな盗られてこの年もただ雪を待つのみとなりたり
ネノクニニ ミンナトラレテ コノトシモ タダユキヲマツ ノミトナリタリ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.192
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (20)


04617
階段まで灯をともし待ちをればひとりぐらゐは戻りて来ずや
カイダンマデ アカリヲトモシ マチヲレバ ヒトリグラヰハ モドリテコズヤ

『風の曼陀羅』(短歌研究社 1991) p.193
【初出】 『短歌往来』 1991.1 ひとりぐらゐは (21)