白い海


04654
兜型の鉄の文鎮を呉れむとしまだ重きかと父は問ひにき
カブトガタノ テツノブンチンヲ クレムトシ マダオモキカト チチハトヒニキ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.17
【初出】 『短歌往来』 1991.11 白い海 (1)


04655
袂には小石を詰めて入水すと和服着てゐしころなりしかば
タモトニハ コイシヲツメテ ジュスイスト ワフクキテヰシ コロナリシカバ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.18
【初出】 『短歌往来』 1991.11 白い海 (2)


04656
「つなぎ」といふ役目の老いし俳優は波止場に白い海を見てゐし
ツナギトイフ ヤクメノオイシ ハイユウハ ハトバニシロイ ウミヲミテヰシ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.18
【初出】 『短歌往来』 1991.11 白い海 (3)


04657
父はまた転勤となりかの海のはまなすの実は見ずに終へにき
チチハマタ テンキントナリ カノウミノ ハマナスノミハ ミズニオヘニキ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.19
【初出】 『短歌往来』 1991.11 白い海 (4)


04658
鹿のやうに耳が動くという人の耳の動くを見ず卒業す
シカノヤウニ ミミガウゴクト イウヒトノ ミミノウゴクヲ ミズソツギョウス

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.19
【初出】 『短歌往来』 1991.11 白い海 (5)


04659
葉の裏を選びて虫は這ふといふ小さき虫も生きねばならず
ハノウラヲ エラビテムシハ ハフトイフ チイサキムシモ イキネバナラム

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.20
【初出】 『短歌往来』 1991.11 白い海 (6)


04660
C棟の六階にして幾夜さかあかりのつかぬひとところあり
シイトウノ ロッカイニシテ イクヨサカ アカリノツカヌ ヒトトコロアリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.20
【初出】 『短歌往来』 1991.11 白い海 (7)


04661
いつの世も同じならむに弱き者が蹴散らかさるる今の世と言ふ
イツノヨモ オナジナラムニ ヨワキモノガ ケチラカサルル イマノヨトイフ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.21
【初出】 『短歌往来』 1991.11 白い海 (8)


04662
玉すだれの花の一列いつのまに斜め歩きをしてゐしわれに
タマスダレノ ハナノイチレツ イツノマニ ナナメアルキヲ シテヰシワレニ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.21
【初出】 『短歌往来』 1991.11 白い海 (9)


04663
闇の奥へまた走り出すなににかに堰かれてゐたる野火の穂先は
ヤミノオクヘ マタハシリダス ナニニカニ セカレテヰタル ノビノホサキハ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.22
【初出】 『短歌往来』 1991.11 白い海 (10)