冬も好き


04664
旧道のうす雪を踏み鳥追ひも遊行の僧ものぼりて行けり
キュウドウノ ウスユキヲフミ トリオヒモ ユギョウノソウモ ノボリテユケリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.23
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (1)


04665
沼一つひつそりとある山といふ沼のあるじはくちなはといふ
ヌマヒトツ ヒツソリトアル ヤマトイフ ヌマノアルジハ クチナハトイフ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.24
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (2)


04666
雪の夜の隠れ念仏に寄りてくるひとりまたひとり影のごとくに
ユキノヨノ カクレネブツニ ヨリテクル ヒトリマタヒトリ カゲノゴトクニ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.24
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (3)


04667
どこまでか行きたるわれを引き戻す知らざることは無きこととして
ドコマデカ ユキタルワレヲ ヒキモドス シラザルコトハ ナキコトトシテ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.25
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (4)


04668
裏側から見てゐるごとき日の夕べ向日葵いろの石蕗が咲く
ウラガワカラ ミテヰルゴトキ ヒノユウベ ヒマワリイロノ ツハブキガサク

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.25
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (5)


04669
渓流の藻の匂ひして亡き父の釣りくる鮎は今にさびしき
ケイリュウノ モノニオヒシテ ナキチチノ ツリクルアユハ イマニサビシキ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.26
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (6)


04670
いつよりか萌えずなりたり人参に似たる葉を持つ叡山すみれ
イツヨリカ モエズナリタリ ニンジンニ ニタルハヲモツ エイザンスミレ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.26
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (7)


04671
細めたる目をしばたたき打擲を待つ犬なりし母もまだゐて
ホソメタル メヲシバタタキ チョウチャクヲ マツイヌナリシ ハハモマダヰテ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.27
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (8)


04672
季節季節に鏡台の覆ひ掛け替へて冬も好きよと姉は言ひにき
キセツキセツニ キョウダイノオオヒ カケカヘテ フユモスキヨト アネハイヒニキ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.27
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (9)


04673
花柄のセーターを着てわがをれば不意に訪ひ来し人がよろこぶ
ハナガラノ セーターヲキテ ワガヲレバ フイニトヒコシ ヒトガヨロコブ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.28
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (10)


04674
風呂敷の結び目固きままの荷を預けて帰る逢はずにすみて
フロシキノ ムスビメカタキ ママノニヲ アズケテカエル アハズニスミテ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.28
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (11)


04675
神経を張り詰めて飛ぶ鷗らかぶつかることもなく交錯す
シンケイヲ ハリツメテトブ カモメラカ ブツカルコトモ ナクコウサクス

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.29
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (12)


04676
雁よりも声太く白鳥は啼くといふ太くなりたるわが声思ふ
カリヨリモ コエフトクハクチョウハ ナクトイフ フトクナリタル ワガコエオモフ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.29
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (13)


04677
ほぐれゆく雲を見をれば筆記体のABCなど久しく書かず
ホグレユク クモヲミヲレバ ヒッキタイノ エービーシーナド ヒサシクカカズ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.30
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (14)


04678
生け垣に羽根がかかりゐたるさま風の音する夜半の目に浮く
イケガキニ シヤトルガカカリ ヰタルサマ カゼノオトスル ヨワノメニウク

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.30
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (15)


04679
水深の深きところまで漕ぎゆきて投げこまれたる物体一個
スイシンノ フカキトコロマデ コギユキテ ナゲコマレタル ブッタイイッコ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.31
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (16)


04680
フランスのクッキーも終はりからつぽになりし小箱のなほも香し
フランスノ クッキーモオハリ カラツポニ ナリシコバコノ ナホモカグハシ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.31
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (17)


04681
散漫になりたるわれの手が行きて今朝見し葉書また読み返す
サンマンニ ナリタルワレノ テガユキテ ケサミシハガキ マタヨミカエス

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.32
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (18)


04682
夜の更けに錠さしに出てもしも今蒸発してもたれにも知れず
ヨノフケニ ジョウサシニデテ モシモイマ ジョウハツシテモ タレニモシレズ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.32
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (19)


04683
仇を討つ思ひいつしかうすれゐて冬の桜を見に今日は来つ
アダヲウツ オモヒイツシカ ウスレヰテ フユノサクラヲ ミニキョウハキツ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.33
【初出】 『短歌研究』 1992.1 冬も好き (20)