近景遠景


04725
塩の道・鯖の道遠く辿りをれば生まるる前のごとき雨降る
シオノミチ サバノミチトオク タドリヲレバ ウマルルマエノ ゴトキアメフル

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.58
【初出】 『〔同時代〕としての女性短歌』(河出書房新社) 1992.9 近景遠景 (1)


04726
ふつ切れし思ひの如く雨のなか窓光らせて発つ列車あり
フツキレシ オモヒノゴトク アメノナカ マドヒカラセテ タツレッシャアリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.59
【初出】 『〔同時代〕としての女性短歌』(河出書房新社) 1992.9 近景遠景 (2)


04727
うしろより見つつ歩みき無雑作に丸めて持てる大学ノート
ウシロヨリ ミツツアユミキ ムゾウサニ マルメテモテル ダイガクノート

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.59
【初出】 『〔同時代〕としての女性短歌』(河出書房新社) 1992.9 近景遠景 (3)


04728
ぼかしたる絵がこのごろは多しとぞ嗅げばアネモネは生臭き花
ボカシタル エガコノゴロハ オオシトゾ カゲバアネモネハ ナマグサキハナ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.60
【初出】 『〔同時代〕としての女性短歌』(河出書房新社) 1992.9 近景遠景 (4)


04729
病みをれば遠ざかりゐてかなたなる人と人とのさかひ目も見ゆ
ヤミヲレバ トオザカリヰテ カナタナル ヒトトヒトトノ サカヒメモミユ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.60
【初出】 『〔同時代〕としての女性短歌』(河出書房新社) 1992.9 近景遠景 (5)


04730
目の前に封が切られて金属の音せぬ一円玉溢れ出づ
メノマエニ フウガキラレテ キンゾクノ オトセヌイチエン ダマアフレイヅ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.61
【初出】 『〔同時代〕としての女性短歌』(河出書房新社) 1992.9 近景遠景 (6)


04731
恐ろしきことを思ひてゐる日あり体軀大きなものより滅ぶ
オソロシキ コトヲオモヒテ ヰルヒアリ タイクオオキナ モノヨリホロブ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.61
【初出】 『〔同時代〕としての女性短歌』(河出書房新社) 1992.9 近景遠景 (7)


04732
突き立ててフランスパンの四五本は売られてゐたりケースの上に
ツキタテテ フランスパンノ シゴホンハ ウラレテヰタリ ケースノウエニ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.62
【初出】 『〔同時代〕としての女性短歌』(河出書房新社) 1992.9 近景遠景 (8)


04733
蓮の花の開くをいつか見に行かむ小鳥のやうに早起きをして
ハスノハナノ ヒラクヲイツカ ミニユカム コトリノヤウニ ハヤオキヲシテ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.62
【初出】 『〔同時代〕としての女性短歌』(河出書房新社) 1992.9 近景遠景 (9)


04734
マチネーのオペラへも癒えて行く日あれ楠の若葉に朝の日が差す
マチネーノ オペラヘモイエテ ユクヒアレ クスノワカバニ アサノヒガサス

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.63
【初出】 『〔同時代〕としての女性短歌』(河出書房新社) 1992.9 近景遠景 (10)