狗尾草の記


04745
はるかなる吉祥天に献げむにゑのころぐさをコップに挿しぬ
ハルカナル キッショウテンニ ササゲムニ ヱノコログサヲ コップニサシヌ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.70
【初出】 『短歌現代』 1993.1 狗尾草の記 (1)


04746
奥山に車のいまだ行かぬころ吉祥天に会ふとかよひき
オクヤマニ クルマノイマダ ユカヌコロ キッショウテンニ アフトカヨヒキ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.71
【初出】 『短歌現代』 1993.1 狗尾草の記 (2)


04747
蠟涙のつと垂直に伝ひたる見慣れぬことは不安を誘ふ
ロウルイノ ツトスイチョクニ ツタヒタル ミナレヌコトハ フアンヲサソフ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.71
【初出】 『短歌現代』 1993.1 狗尾草の記 (3)


04748
女子のみの生徒を持ちて一人だに戦にやらぬ幸ひありき
ジョシノミノ セイトヲモチテ ヒトリダニ イクサニヤラヌ サイワヒアリキ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.72
【初出】 『短歌現代』 1993.1 狗尾草の記 (4)


04749
木の洞に申し合はせて隠し置く要もなきままキイ持ちて出づ
キノウロニ モウシアハセテ カクシオク ヨウモナキママ キイモチテイヅ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.72
【初出】 『短歌現代』 1993.1 狗尾草の記 (5)


04750
へだたりはかくの如くに香水を変へたることの人に知られず
ヘダタリハ カクノゴトクニ コウスイヲ カヘタルコトノ ヒトニシラレズ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.73
【初出】 『短歌現代』 1993.1 狗尾草の記 (6)


04751
桃山のころの雲よと屏風絵を見をれば銀の箔がまたたく
モモヤマノ コロノクモヨト ビョウブエヲ ミヲレバギンノ ハクガマタタク

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.73
【初出】 『短歌現代』 1993.1 狗尾草の記 (7)


04752
そののちに降りにし雪に消されたる足跡のありとたれの言ひけむ
ソノノチニ フリニシユキニ ケサレタル アシアトノアリト タレノイヒケム

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.74
【初出】 『短歌現代』 1993.1 狗尾草の記 (8)


04753
喉元をすぎて忘るるわが性は母に受けたる大きたまもの
ノドモトヲ スギテワスルル ワガサガハ ハハニウケタル オオキタマモノ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.74
【初出】 『短歌現代』 1993.1 狗尾草の記 (9)


04754
来む世にはゑのころぐさとわがならむ抜かれぬやうに踏まれぬやうに
コムヨニハ ヱノコログサト ワガナラム ヌカレヌヤウニ フマレヌヤウニ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.75
【初出】 『短歌現代』 1993.1 狗尾草の記 (10)