かたくりの花


04760
その道をまつすぐと電話に告げてよりぐんぐん近づく白の車体は
ソノミチヲ マツスグトデンワニ ツゲテヨリ グングンチカヅク シロノシャタイハ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.79
【初出】 『短歌』 1993.2 かたくりの花 (1)


04761
日を選ぶ習ひのわれに残りゐて古き傘のままマートまで行く
ヒヲエラブ ナラヒノワレニ ノコリヰテ フルキカサノママ マートマデユク

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.80
【初出】 『短歌』 1993.2 かたくりの花 (2)


04762
大時計はいづこも正午をさすならむ人まばらなる広場もあらむ
オオドケイハ イヅコモショウゴヲ サスナラム ヒトマバラナル ヒロバモアラム

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.80
【初出】 『短歌』 1993.2 かたくりの花 (3)


04763
かそかなる収入のありて片栗の花をゑがかむ絵の具買ふとぞ
カソカナル ミイリノアリテ カタクリノ ハナヲヱガカム エノグカフトゾ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.81
【初出】 『短歌』 1993.2 かたくりの花 (4)


04764
十人の子供預かり賑はへり間口の狭きビルの二階は
ジュウニンノ コドモアズカリ ニギハヘリ マグチノセマキ ビルノニカイハ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.81
【初出】 『短歌』 1993.2 かたくりの花 (5)


04765
ぎざぎざの紙の王冠かぶりたる小さき王さまたちまちころぶ
ギザギザノ カミノオウカン カブリタル チイサキオウサマ タチマチコロブ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.82
【初出】 『短歌』 1993.2 かたくりの花 (6)


04766
仮面つけて鬼になりし子鬼のまま帰りてはならず祖母待つ家へ
カメンツケテ オニニナリシコ オニノママ カエリテハナラズ ソボマツイエヘ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.82
【初出】 『短歌』 1993.2 かたくりの花 (7)


04767
煮立ちたる湯沸かしポットのカルキ抜くボタンを押して待つに間のあり
ニタチタル ユワカシポットノ カルキヌク ボタンヲオシテ マツニマノアリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.83
【初出】 『短歌』 1993.2 かたくりの花 (8)


04768
仙台の駄菓子いただくティータイム時計まはりに箱を回しぬ
センダイノ ダガシイタダク ティータイム トケイマハリニ ハコヲマワシヌ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.83
【初出】 『短歌』 1993.2 かたくりの花 (9)


04769
三たび来てまた迷へるに理容室のサインポールが不意に目の前
ミタビキテ マタマヨヘルニ リヨウシツノ サインポールガ フイニメノマエ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.84
【初出】 『短歌』 1993.2 かたくりの花 (10)


04770
たれかれの手を借りて昇る階段にあたたかき手と今宵も言はる
タレカレノ テヲカリテノボル カイダンニ アタタカキテト コヨイモイハル

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.84
【初出】 『短歌』 1993.2 かたくりの花 (11)


04771
内臓を病むことのなき軽さよとアンティークドール棚に戻しぬ
ナイゾウヲ ヤムコトノナキ カルサヨト アンティークドール タナニモドシヌ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.85
【初出】 『短歌』 1993.2 かたくりの花 (12)


04772
中型の犬張子もて遊びしは幾百年も昔のごとし
チュウガタノ イヌハリコモテ アソビシハ イクヒャクネンモ ムカシノゴトシ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.85
【初出】 『短歌』 1993.2 かたくりの花 (13)


04773
釘の長さに区分されたる釘箱のいつよりかありいつまでかある
クギノナガサニ クワケサレタル クギバコノ イツヨリカアリ イツマデカアル

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.86
【初出】 『短歌』 1993.2 かたくりの花 (14)