立春の水


04774
目に見ゆる鬼のみはせめて遣らふべし雪の礫をあまた作りて
メニミユル オニノミハセメテ ヤラフベシ ユキノツブテヲ アマタツクリテ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.87
【初出】 『短歌研究』 1993.3 立春の水 (1)


04775
火のついたやうな時間につと立ちてくぐり抜けたるくらやみありき
ヒノツイタ ヤウナジカンニ ツトタチテ クグリヌケタル クラヤミアリキ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.88
【初出】 『短歌研究』 1993.3 立春の水 (2)


04776
大粒の寒の玉子を移しをれば落とさぬ注意ばかり働く
オオツブノ カンノタマゴヲ ウツシヲレバ オトサヌチュウイ バカリハタラク

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.88
【初出】 『短歌研究』 1993.3 立春の水 (3)


04777
幌深く今はむかしの乳母車立春の水かがやきやまず
ホロフカク イマハムカシノ ウバグルマ リッシュンノミズ カガヤキヤマズ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.89
【初出】 『短歌研究』 1993.3 立春の水 (4)


04778
横隊に水にうかべる六羽ゐて振り向けばもうちりぢりの鴨
オウタイニ ミズニウカベル ロッパヰテ フリムケバモウ チリヂリノカモ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.89
【初出】 『短歌研究』 1993.3 立春の水 (5)


04779
どのやうな手にちぎられて浮く雲か音も無く茜の色を帯びゆく
ドノヤウナ テニチギラレテ ウククモカ オトモナクアカネノ イロヲオビユク

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.90
【初出】 『短歌研究』 1993.3 立春の水 (6)


04780
十日早く春一番の吹きし夜向かひの家はくらがりのまま
トオカハヤク ハルイチバンノ フキシヨル ムカヒノイエハ クラガリノママ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.90
【初出】 『短歌研究』 1993.3 立春の水 (7)