同じ魚の名


04781
木石にあらねばとたれの言ひにけむ笹を鳴らして春の雨降る
ボクセキニ アラネバトタレノ イヒニケム ササヲナラシテ ハルノアメフル

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.91
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (1)


04782
あいまいに言はれしのみに足どめに会ひたるひと日暮れゆかむとす
アイマイニ イハレシノミニ アシドメニ アヒタルヒトヒ クレユカムトス

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.92
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (2)


04783
山葵いろの和菓子ひと棹賜ひたり界を隔てしはらからのため
ワサビイロノ ワガシヒトサオ タマヒタリ カイヲヘダテシ ハラカラノタメ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.92
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (3)


04784
女子大はひつそり今も在りしとぞ若草山を燃す日に行けば
ジョシダイハ ヒツソリイマモ アリシトゾ ワカクサヤマヲ モスヒニユケバ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.93
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (4)


04785
源氏物語宿木のなかの古女ふるをんなとは老いたるをんな
ゲンジモノガタリ ヤドリギノナカノ フルオンナ フルヲンナトハ オイタルヲンナ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.93
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (5)


04786
寮生はみな若かりき同じ魚を別の名に呼び譲ることなく
リョウセイハ ミナワカカリキ オナジウオヲ ベツノナニヨビ ユズルコトナク

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.94
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (6)


04787
コンピューターに笑はされたるモナ・リサはもう亡きわれの妹に似ず
コンピューターニ ワラハサレタル モナリサハ モウナキワレノ イモウトニニズ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.94
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (7)


04788
鳩あまた空に放ちて終へにしが幾日か経てひつじ雲浮く
ハトアマタ ソラニハナチテ オヘニシガ イクニチカヘテ ヒツジグモウク

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.95
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (8)


04789
春の貝のスパゲティでも召しませと書きたり介護終へたる人に
ハルノカイノ スパゲティデモ メシマセト カキタリカイゴ オヘタルヒトニ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.95
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (9)


04790
みづからを鎮めむに振る香水の今日のミツコは少し甘きか
ミヅカラヲ シズメムニフル コウスイノ キョウノミツコハ スコシアマキカ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.96
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (10)


04791
年長けて麝香は使ふと言ひゐしが若き身空にみまかりましぬ
トシタケテ ジャコウハツカフト イヒヰシガ ワカキミソラニ ミマカリマシヌ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.96
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (11)


04792
紙屑が幾たびとなく舞ひあがり町に競輪のある日なりしか
カミクズガ イクタビトナク マヒアガリ マチニケイリンノ アルヒナリシカ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.97
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (12)


04793
木の上の十羽の鴉幾羽まで集まる待ちて地上を襲ふ
キノウエノ ジッパノカラス イクワマデ アツマルマチテ チジョウヲオソフ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.97
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (13)


04794
咲く花に会ふ日の無くてからたちの分厚き垣根とげだらけなる
サクハナニ アフヒノナクテ カラタチノ ブアツキカキネ トゲダラケナル

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.98
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (14)


04795
ひしと待つ側にのみ居て嘆きしかつらかりにけむ待たるる人も
ヒシトマツ ガハニノミイテ ナゲキシカ ツラカリニケム マタルルヒトモ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.98
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (15)


04796
猟犬を飼ひゐし家はウガンダへなべてさすらふ春三月は
リョウケンヲ カヒヰシイエハ ウガンダヘ ナベテサスラフ ハルサンガツハ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.99
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (16)


04797
桃いろの色鉛筆もて罫引けば夜の机のはつか華やぐ
モモイロノ イロエンピツモテ ケイヒケバ ヨルノツクエノ ハツカハナヤグ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.99
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (17)


04798
いつまでもふさがらぬ部屋を一つ持つ夜のマンション光の砦
イツマデモ フサガラヌヘヤヲ ヒトツモツ ヨルノマンション ヒカリノトリデ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.100
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (18)


04799
やはらかに衿足にくる風のあり囲へる葱もかそかとなりぬ
ヤハラカニ エリアシニクル カゼノアリ カコヘルネギモ カソカトナリヌ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.100
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (19)


04800
日本中晴れて黄砂の舞ひしとぞるす守る如くひと日ををれば
ニホンジュウ ハレテコウサノ マヒシトゾ ルスモルゴトク ヒトヒヲヲレバ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.101
【初出】 『歌壇』 1993.6 同じ魚の名 (20)