風のあとさき


04824
風のあとざらつく町をロケ・ハンとおぼしき男女の一団が来る
カゼノアト ザラツクマチヲ ロケハント オボシキダンジョノ イチダンガクル

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.116
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (1)


04825
すぢ雲は湧きて流れてとめどなし潔癖といふは少し寒きか
スヂグモハ ワキテナガレテ トメドナシ ケッペキトイフハ スコシサムキカ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.117
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (2)


04826
しをれたるダリアの如くありにしが何の力か得て立ちあがる
シヲレタル ダリアノゴトク アリニシガ ナンノチカラカ エテタチアガル

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.117
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (3)


04827
いつの世のことかと思ふはろけさに糸瓜這はせて棲む母の居し
イツノヨノ コトカトオモフ ハロケサニ ヘチマハハセテ スムハハノイシ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.118
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (4)


04828
午前十時午後ニ時相似る時間帯まれに自転車の通る音して
ゴゼンジュウジ ゴゴニジアイニル ジカンタイ マレニジテンシャノ トオルオトシテ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.118
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (5)


04829
焼け跡に水道栓はしぶきゐつ艦砲射撃のかの日のごとく
ヤケアトニ スイドウセンハ シブキヰツ カンポウシャゲキノ カノヒノゴトク

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.119
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (6)


04830
岩塩はごつごつ土の色をしてみな土の色を帯びゐし日あり
ガンエンハ ゴツゴツツチノ イロヲシテ ミナツチノイロヲ オビヰシヒアリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.119
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (7)


04831
女生徒を連れてのがれしぼた山の裾はいちめんひるがほの花
ジョセイトヲ ツレテノガレシ ボタヤマノ スソハイチメン ヒルガホノハナ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.120
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (8)


04832
ジープと呼ぶ乗り物二台現れてアメリカの兵は校庭に来し
ジープトヨブ ノリモノニダイ アラワレテ アメリカノヘイハ コウテイニコシ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.120
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (9)


04833
教員になるを厭ひし二人ゐて挺身隊より戻らざりけり
キョウインニ ナルヲイトヒシ フタリヰテ テイシンタイヨリ モドラザリケリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.121
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (10)


04834
ねずみ黐の花がをりをり匂ひ来て梅雨寒といふ寒さを運ぶ
ネズミモチノ ハナガヲリヲリ ニオヒキテ ツユザムトイフ サムサヲハコブ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.121
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (11)


04835
ためらはずブザーを押して雨の日の女性伝道師みどり児を負ふ
タメラハズ ブザーヲオシテ アメノヒノ ジョセイデンドウシ ミドリゴヲオフ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.122
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (12)


04836
駅前のアーケードなどまだ無くて置き傘にしてゐし青き蝙蝠
エキマエノ アーケードナド マダナクテ オキガサニシテヰシ アオキコウモリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.122
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (13)


04837
フランネルの手ざはりのふと懐かしくなかなか芯の抜けぬ風邪なり
フランネルノ テザハリノフト ナツカシク ナカナカシンノ ヌケヌカゼナリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.123
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (14)


04838
ひさびさに手紙書きたるぬくもりに木の葉木菟の絵の切手を貼りぬ
ヒサビサニ テガミカキタル ヌクモリニ コノハズクノエノ キッテヲハリヌ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.123
【初出】 『短歌新聞』 1993.10 風のあとさき (15)