家のうちそと


04839
右側の少女もパラソルひらきたりパラソル二つ別れて行けり
ミギガワノ オトメモパラソル ヒラキタリ パラソルフタツ ワカレテユケリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.124
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (1)


04840
穂先もてやさしく描かむ合歓の花白の絵の具を少し絞りて
ホサキモテ ヤサシクカカム ネムノハナ シロノエノグヲ スコシシボリテ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.125
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (2)


04841
ネーブルを白布の上にころがしてゑがくをとめらささめき合へり
ネーブルヲ ハクフノウエニ コロガシテ ヱガクヲトメラ ササメキアヘリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.125
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (3)


04842
ヴィーナスを囲むサークル賑はふにダヴィデの首をわれは描きゐし
ヴィーナスヲ カコムサークル ニギハフニ ダヴィデノクビヲ ワレハカキヰシ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.126
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (4)


04843
北国の町にゐしころかなしみて隧道をひとり帰りし日あり
キタグニノ マチニヰシコロ カナシミテ ズイドウヲヒトリ カエリシヒアリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.126
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (5)


04844
年月に表紙ほつれて「狩の歌」メンデルスゾーンの楽譜出で来ぬ
トシツキニ ヒョウシホツレテ カリノウタ メンデルスゾーンノ ガクフイデキヌ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.127
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (6)


04845
入梅の前に今年の立葵鄙の花らしく赤々と咲く
ニュウバイノ マエニコトシノ タチアオイ ヒナノハナラシク アカアカトサク

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.127
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (7)


04846
縄文も弥生も寒しざらざらの火焔土器とふ壺をかこみて
ジョウモンモ ヤヨイモサムシ ザラザラノ カエンドキトフ ツボヲカコミテ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.128
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (8)


04847
不揃ひの五十人乗せ道幅をひろげてバスは曲がりて行きぬ
フゾロヒノ ゴジュウニンノセ ミチハバヲ ヒロゲテバスハ マガリテユキヌ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.128
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (9)


04848
曇天の青田に一羽白鷺のほのと光を帯ぶることあり
ドンテンノ アオタニイチワ シラサギノ ホノトヒカリヲ オブルコトアリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.129
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (10)


04849
越冬のためはろばろと海を渡るまだら蝶にも人は及ばぬ
エットウノ タメハロバロト ウミヲワタル マダラチョウニモ ヒトハオヨバヌ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.129
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (11)


04850
明け方にかけてあまたの星降るとそそのかすやうに幾たびも言ふ
アケガタニ カケテアマタノ ホシフルト ソソノカスヤウニ イクタビモイフ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.130
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (12)


04851
ストローはつぶれ易くて麦稈といふ文字などを早く知りにき
ストローハ ツブレヤスクテ バッカント イフモジナドヲ ハヤクシリニキ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.130
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (13)


04852
匂ひなほ残るやさしさひと夏を経てゆるみたる扇子なれども
ニオヒナホ ノコルヤサシサ ヒトナツヲ ヘテユルミタル センスナレドモ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.131
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (14)


04853
押し売りに置いて行かれしゴムの木に若葉の出でて夏越さむとす
オシウリニ オイテユカレシ ゴムノキニ ワカバノイデテ ナツコサムトス

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.131
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (15)


04854
屏風岩も亀岩も波をかぶりゐむ台風は三陸をかすむるといふ
ビョウブイワモ カメイワモナミヲ カブリヰム タイフウハサンリクヲ カスムルトイフ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.132
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (16)


04855
風船に乗りてのがれていづこまで嵐が来ると聞けば思ほゆ
フウセンニ ノリテノガレテ イヅコマデ アラシガクルト キケバオモホユ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.132
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (17)


04856
この先にどんでん返しなどあるらむか声出して読む大原御幸を
コノサキニ ドンデンガエシナド アルラムカ コエダシテヨム オハラゴコウヲ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.133
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (18)


04857
石鹸は石鹸の香に戻りゐて雨がちのまま立秋といふ
セッケンハ セッケンノカニ モドリヰテ アメガチノママ リッシュウトイフ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.133
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (19)


04858
出でて来て蛍を追へばなかぞらをさかのぼりゆく光のしづく
イデテキテ ホタルヲオヘバ ナカゾラヲ サカノボリユク ヒカリノシヅク

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.134
【初出】 『短歌研究』 1993.11 家のうちそと (20)