錫いろの空


04874
ローランサン見む約束に木枯らしのなかを行くらむ特急「あずさ」
ローランサン ミムヤクソクニ コガラシノ ナカヲユクラム トッキュウアズサ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.144
【初出】 『短歌』 1994.2 錫いろの空 (1)


04875
無秩序にあふれて市場に売られたる果実はどこに並べられしか
ムチツジョニ アフレテシジョウニ ウラレタル カジツハドコニ ナラベラレシカ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.145
【初出】 『短歌』 1994.2 錫いろの空 (2)


04876
禽獣としてゑがくほかなかりしと閉ざされてゐし時代を言へり
キンジュウト シテヱガクホカ ナカリシト トザサレテヰシ ジダイヲイヘリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.145
【初出】 『短歌』 1994.2 錫いろの空 (3)


04877
棒立ちといふことのあり立ちをればわれはわれより離れて行けり
ボウダチト イフコトノアリ タチヲレバ ワレハワレヨリ ハナレテユケリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.146
【初出】 『短歌』 1994.2 錫いろの空 (4)


04878
束の間の入院と聞きて別れしがインターフェロンとは何の薬ぞ
ツカノマノ ニュウイントキキテ ワカレシガ インターフェロントハ ナンノクスリゾ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.146
【初出】 『短歌』 1994.2 錫いろの空 (5)


04879
幾日も帰らず富士の笠雲を待ちて写しき妻亡きのちは
イクニチモ カエラズフジノ カサグモヲ マチテウツシキ ツマナキノチハ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.147
【初出】 『短歌』 1994.2 錫いろの空 (6)


04880
荒蕪地にコスモス咲かせ秋深し百万本を如何にか植ゑし
コウブチニ コスモスサカセ アキフカシ ヒャクマンボンヲ イカニカウヱシ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.147
【初出】 『短歌』 1994.2 錫いろの空 (7)


04881
レプリカと知りゐることも罪に似て胸ふくらかに水禽埴輪
レプリカト シリヰルコトモ ツミニニテ ムネフクラカニ スイキンハニワ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.148
【初出】 『短歌』 1994.2 錫いろの空 (8)


04882
逃げ水のしじに湧く日と思へども曾孫といふみどり児を見つ
ニゲミズノ シジニワクヒト オモヘドモ ヒイマゴトイフ ミドリゴヲミツ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.148
【初出】 『短歌』 1994.2 錫いろの空 (9)


04883
白鳥座のかたちやうやくつなぎ終へ土に降り立つ思ひありたり
ハクチョウザノ カタチヤウヤク ツナギオヘ ツチニオリタツ オモヒアリタリ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.149
【初出】 『短歌』 1994.2 錫いろの空 (10)


04884
窓あけて賑はふ一夜ありしのみつねは音無く二人が暮らす
マドアケテ ニギハフヒトヨ アリシノミ ツネハオトナク フタリガクラス

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.149
【初出】 『短歌』 1994.2 錫いろの空 (11)


04885
バイエルをぱらぱら弾きて髪長き少女はどこの家にも居りし
バイエルヲ パラパラヒキテ カミナガキ オトメハドコノ イエニモオリシ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.150
【初出】 『短歌』 1994.2 錫いろの空 (12)


04886
身体が変はると思ふ日なりしか「ドリアン・グレイの肖像」読みて
シンタイガ カハルトオモフ ヒナリシカ ドリアングレイノ ショウゾウヨミテ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.150
【初出】 『短歌』 1994.2 錫いろの空 (13)


04887
伝書鳩を飼ふ少年はもう居らず寒かりし冬の錫いろの空
デンショバトヲ カフショウネンハ モウオラズ サムカリシフユノ スズイロノソラ

『光たばねて』(短歌新聞社 1998) p.151
【初出】 『短歌』 1994.2 錫いろの空 (14)