職掌


04919
傀儡の如き工場を歎く友も教職には帰りたくなしと言ひたり
カイライノ ゴトキコウバヲ ナゲクトモモ キョウショクニハカエリタク ナシトイヒタリ

『形成』(形成発行所 1953.10) 第1巻6号(通巻6号) p.7


04920
かげ口のみ言ふ雇ひ女も未亡人の自衛本能と思へば憎めず
カゲグチノミ イフヤトヒメモ ミボウジンノ ジエイホンノウト オモヘバニクメズ

『形成』(形成発行所 1953.10) 第1巻6号(通巻6号) p.7


04921
背景がもの言ふ世界と思ひつつたまりし官報を一人綴ぢをり
ハイケイガ モノイフセカイト オモヒツツ タマリシカンポウヲ ヒトリトヂヲリ

『形成』(形成発行所 1953.10) 第1巻6号(通巻6号) p.7


04922
温く心触れ合ふ事もなく今日も暮れて事務所の窓を閉ぢゆく
アタタカク ココロフレアフ コトモナク キョウモクレテジムショノ マドヲトヂユク

『形成』(形成発行所 1953.10) 第1巻6号(通巻6号) p.7


04923
教員たりし日々の恋しも声潜めて物言ふ人の多き事務所に
キョウインタリシ ヒビノコヒシモ コエヒソメテ モノイフヒトノ オオキジムショニ

『形成』(形成発行所 1953.10) 第1巻6号(通巻6号) p.7


04924
たかむらに埋れて低き藁の屋根一夜の宿を乞はむとぞ佇つ
タカムラニ ウモレテヒヒクキ ワラノヤネ ヒトヨノヤドヲ コハムトゾマツ

『形成』(形成発行所 1953.10) 第1巻6号(通巻6号) p.7


04925
幾年の曲折を経つつ姑もまた寂しき人とのみ思ひなし来ぬ
イクトセノ キョクセツヲヘツツ ハハモマタ サビシキヒトトノミ オモヒナシキヌ

『形成』(形成発行所 1953.10) 第1巻6号(通巻6号) p.7


04926
君の心を見抜かむ底意持つことも寂しくなりぬ夜更くるままに
キミノココロヲ ミヌカムソコイ モツコトモ サビシクナリヌ ヨフクルママニ

『形成』(形成発行所 1953.10) 第1巻6号(通巻6号) p.7


04927
ヘッセ読みつつ何時か眠りにおちてゆく明日を信ずる如き姿態に
ヘッセヨミツツ イツカネムリニ オチテユク アスヲシンズル ゴトキシタイニ

『形成』(形成発行所 1953.10) 第1巻6号(通巻6号) p.7


04928
転職の時期かとも思ふ頰杖つきて食卓に一人残り居りつつ
テンショクノ ジキカトモオモフ ホオヅエツキテ ショクタクニヒトリ ノコリオリツツ

『形成』(形成発行所 1953.10) 第1巻6号(通巻6号) p.7


04929
依頼心をあまり持たぬ性も女として不幸と思ふ年経るままに
イライシンヲ アマリモタヌサガモ オンナトシテ フコウトオモフ トシヘルママニ

『形成』(形成発行所 1953.10) 第1巻6号(通巻6号) p.7


04930
眠れざりしことも忘れむ朝の井戸端に両耳の裏を念入れて拭く
ネムレザリシ コトモワスレムアサノ イドバタニ リョウミミノウラヲ ネンイレテフク

『形成』(形成発行所 1953.10) 第1巻6号(通巻6号) p.7


04931
わが生活を如何に見て帰りしか飛躍せよと友は手紙に書き添へて来ぬ
ワガセイカツヲ イカニミテカエリシカ ヒヤクセヨト トモハテガミニ カキソヘテキヌ

『形成』(形成発行所 1953.10) 第1巻6号(通巻6号) p.7