暗き季節


04973
やりどなき苦しみに堪へて来し揚句一つの決断にわが迫らるる
ヤリドナキ クルシミニタヘテ コシアゲク ヒトツノケツダンニ ワガセマラルル

『形成』(形成発行所 1954.3) 第2巻3号(通巻11号) p.55


04974
ふきこぼるる鍋を下して今宵も一人遅き夕餉に向はむとする
フキコボルル ナベヲオロシテ コヨイモヒトリ オソキユウゲニ ムカハムトスル

『形成』(形成発行所 1954.3) 第2巻3号(通巻11号) p.55


04975
声低く論語学而篇を読み始む苦しみの果ての安らひに似て
コエヒクク ロンゴガクジヘンヲ ヨミハジム クルシミノハテノ ヤスラヒニニテ

『形成』(形成発行所 1954.3) 第2巻3号(通巻11号) p.55


04976
恋ひて待つ人もなき身ぞ星々もまたたき交すごとき夜半なり
コヒテマツ ヒトモナキミゾ ホシボシモ マタタキカワス ゴトキヨワナリ

『形成』(形成発行所 1954.3) 第2巻3号(通巻11号) p.55


04977
常に何か賭けて生きむとする君に秘かにわれの苦しみて来ぬ
ツネニナニカ カケテイキムト スルキミニ ヒソカニワレノ クルシミテキヌ

『形成』(形成発行所 1954.3) 第2巻3号(通巻11号) p.55


04978
孤立無援の君と思ひて眠らぬに今宵も帰り来る気配なし
コリツムエンノ キミトオモヒテ ネムラヌニ コヨイモカエリ クルケハイナシ

『形成』(形成発行所 1954.3) 第2巻3号(通巻11号) p.55


04979
思ひあぐみて幾夜眠らぬわれの名を幼く呼びて妹は来ぬ
オモヒアグミテ イクヨネムラヌ ワレノナヲ オサナクヨビテ イモウトハキヌ

『形成』(形成発行所 1954.3) 第2巻3号(通巻11号) p.55


04980
コートなど縫ふに紛れてゐるさまを見届けて母は帰りゆきたり
コートナド ヌフニマギレテ ヰルサマヲ ミトドケテハハハ カエリユキタリ

『形成』(形成発行所 1954.3) 第2巻3号(通巻11号) p.55