波紋


04981
編輯者なる肩書ゆゑにもてなされしかと思ふ帰りのバスに揺られつつ
ヘンシュウシャナル カタガキユヱニ モテナサレ シカトオモフカエリノ バスニユラレツツ

『形成』(形成発行所 1954.4) 第2巻4号(通巻12号) p.8


04982
彩りもなきパンフレットを月々に編みつつ何時まで勤め得む身ぞ
イロドリモ ナキパンフレットヲ ツキヅキニ アミツツイツマデ ツトメエムミゾ

『形成』(形成発行所 1954.4) 第2巻4号(通巻12号) p.8


04983
編輯の中立のために棄てねばならぬ論説一つ読み返しゆく
ヘンシュウノ チュウリツノタメニ ステネバナラヌ ロンセツヒトツ ヨミカエシユク

『形成』(形成発行所 1954.4) 第2巻4号(通巻12号) p.8


04984
昼食後を今日も襲はるる懈怠感廊下には既に印刷屋が待てり
チュウショクゴヲ キョウモオソハルル ケタイカン ロウカニハスデニ インサツヤガマテリ

『形成』(形成発行所 1954.4) 第2巻4号(通巻12号) p.8


04985
酔ひに紛らしてわが編輯のマンネリズムを衝しき一人も帰りゆきたり
ヨヒニマギラシテ ワガヘンシュウノ マンネリズムヲ ツキシキヒトリモ カエリユキタリ

『形成』(形成発行所 1954.4) 第2巻4号(通巻12号) p.8


04986
人を庇ひてみづからの立場を狭めゆくわれかと思ふ協議終へ来て
ヒトヲカバヒテ ミヅカラノタチバヲ セバメユク ワレカトオモフ キョウギオヘキテ

『形成』(形成発行所 1954.4) 第2巻4号(通巻12号) p.8


04987
空白の時間をかき消すよすがとも指傷めつつもの編み続く
クウハクノ ジカンヲカキケス ヨスガトモ ユビイタメツツ モノアミツヅク

『形成』(形成発行所 1954.4) 第2巻4号(通巻12号) p.8


04988
減らし目を忘れて編みゐし袖を解く夜半の思ひのはづむ事なし
ヘラシメヲ ワスレテアミヰシ ソデヲトク ヨワノオモヒノ ハヅムコトナシ

『形成』(形成発行所 1954.4) 第2巻4号(通巻12号) p.8


04989
せめて深き眠りを得たし今宵ひとり食べ余したる林檎が匂ふ
セメテフカキ ネムリヲエタシ コヨヒヒトリ タベアマシタル リンゴガニオフ

『形成』(形成発行所 1954.4) 第2巻4号(通巻12号) p.8


04990
うらぶれし夜半の心ぞ眠れぬままに起き出でて鍋を磨き始めぬ
ウラブレシ ヨワノココロゾ ネムレヌママニ オキイデテナベヲ ミガキハジメヌ

『形成』(形成発行所 1954.4) 第2巻4号(通巻12号) p.8


04991
君が心を占めゐるは何ぞボヘミアンの如き貌して夜半帰り来ぬ
キミガココロヲ シメヰルハナニゾ ボヘミアンノ ゴトキカオシテ ヨワカエリキヌ

『形成』(形成発行所 1954.4) 第2巻4号(通巻12号) p.8