流離


05002
冷たき女などと噂されてゐるも知る憎み切れず永くわが苦しむに
ツメタキオンナ ナドトウワササレテ ヰルモシル ニクミキレズナガク ワガクルシムニ

『形成』(形成発行所 1954.6) 第2巻6号(通巻14号) p.8


05003
それぞれに孤独ゆゑ手をつながむと言ひくれし友にも久しく逢へず
ソレゾレニ コドクユヱテヲ ツナガムト イヒクレシトモニモ ヒサシクアヘズ

『形成』(形成発行所 1954.6) 第2巻6号(通巻14号) p.8


05004
ネール首相を論じ来しわれら消極的になるを戒め合ひて別れぬ
ネールシュショウヲ ロンジコシワレラ ショウキョクテキニ ナルヲイマシメ アヒテワカレヌ

『形成』(形成発行所 1954.6) 第2巻6号(通巻14号) p.8


05005
芥焼きし跡を見廻り来て灯をともす今宵は母に便りを書かむ
アクタヤキシ アトヲミマワリキテ ヒヲトモス コヨイハハハニ タヨリヲカカム

『形成』(形成発行所 1954.6) 第2巻6号(通巻14号) p.8


05006
花の木など植ゑて住むべき家もつは何時の日ぞ部屋の隅に炊げり
ハナノキナド ウヱテスムベキ イエモツハ イツノヒゾヘヤノ スミニカシゲリ

『形成』(形成発行所 1954.6) 第2巻6号(通巻14号) p.8


05007
立ち直りゆきたし君の背離さへ一つのアンチテーゼとなして
タチナオリ ユキタシキミノ ハイリサヘ ヒトツノアンチ テーゼトナシテ

『形成』(形成発行所 1954.6) 第2巻6号(通巻14号) p.8


05008
貪婪に素材を漁る画家の目ぞモデルになれと乞はれて母は戸惑ふ
ドンランニ ソザイヲアサル ガカノメゾ モデルニナレトコハレテ ハハハトマドフ

『形成』(形成発行所 1954.6) 第2巻6号(通巻14号) p.8


05009
木蓮の落花一ひら拾ひ上ぐ女ひとり生きてゆかねばならぬ
モクレンノ ラッカヒトヒラ ヒロヒアグ オンナヒトリイキテ ユカネバナラヌ

『形成』(形成発行所 1954.6) 第2巻6号(通巻14号) p.8


05010
甘酸ゆき香のこもりゐむ桐の花野末に見つつわがバスは過ぐ
アマズユキ カノコモリヰム キリノハナ ノズエニミツツ ワガバスハスグ

『形成』(形成発行所 1954.6) 第2巻6号(通巻14号) p.8