05070
いづくにか虹かかりゐむ通り雨の過ぎて陽はわが枕べにさす
イヅクニカ　ニジカカリヰム　トオリアメノ　スギテヒハワガ　マクラベニサス

05071
教員たりし遠き記憶に生徒らも図書室のミロのヴィナスもやさし
キョウインタリシ　トオキキオクニ　セイトラモ　トショシツノミロノ　ヴィナスモヤサシ

05072
日本列島の地理的優位など生徒らに説きにし日あり償ひがたし
ニホンレットウノ　チリテキユウイナド　セイトラニ　トキニシヒアリ　ツグナヒガタシ

05073
ぬかりなく後任を狙ふ彼を知り離職せむ君との幾日は寂し
ヌカリナク　コウニンヲネラフ　カレヲシリ　リショクセムキミトノ　イクヒハサビシ

05074
青年団体の再統合の要をしきりに説く横顔憎くしまじまじと見つ
セイネンダンタイノ　サイトウゴウノカナメヲ　シキリニトク　ヨコガオニクシ　マジマジトミツ

05075
まどゐ得よと母が持たせくれし長火鉢独りとなりし部屋に位置占む
マドヰエヨト　ハハガモタセクレシ　ナガヒバチ　ヒトリトナリシ　ヘヤニイチシム

05076
酔へば乱れて帰る夫を夜々にみとりたる来し方も今の独りも寂し
ヨヘバミダレテ　カエルツマヲヨヨニ　ミトリタル　コシカタモイマノ　ヒトリモサビシ

05077
抽象的な人間と人に言はれしこと又思ふ夕餉のサラダまぜてゐて
チュウショウテキナ　ニンゲントヒトニ　イハレシコト　マタオモフユウゲノ　サラダマゼテヰテ

05078
カシオペアの夜々澄む季節めぐり来て古き星図を書棚に探す
カシオペアノ　ヨヨスムキセツ　メグリキテ　フルキセイズヲ　ショダナニサガス

05079
羊歯類の葉先より枯るる下草を踏みゆく無礙のこころとなりて
シダルイノ　ハサキヨリカルル　シタクサヲ　フミユクムゲノ　ココロトナリテ

05080
放ち飼ひの仔馬ら寄りて草はめりひと方に牧の穂草はなびく
ハナチカヒノ　コウマラヨリテ　クサハメリ　ヒトカタニマキノ　ホグサハナビク