海岸線


05081
港の町にひとり赴任せし遠き日を思ふ病みゐし父も既に亡し
ミナトノマチニ ヒトリフニンセシ トオキヒヲ オモフヤミヰシ チチモスデニナシ

『形成』(形成発行所 1955.2) 第3巻2号(通巻22号) p.6


05082
独り住みて潮鳴り高き冬の夜々三陸はシベリアの如しと思ひき
ヒトリスミテ シオナリタカキ フユノヨヨ サンリクハシベリアノ ゴトシトオモヒキ

『形成』(形成発行所 1955.2) 第3巻2号(通巻22号) p.6


05083
上京せむ決意のゆらぐ日もありき明るく生徒らに取り巻かれつつ
ジョウキョウセム ケツイノユラグ ヒモアリキ アカルクセイトラニ トリマカレツツ

『形成』(形成発行所 1955.2) 第3巻2号(通巻22号) p.6


05084
港の女学校に勤めゐて君と結ばれし日を恋ふひとり病めば寂しく
ミナトノジョガッコウニ ツトメヰテキミト ムスバレシ ヒヲコフヒトリ ヤメバサビシク

『形成』(形成発行所 1955.2) 第3巻2号(通巻22号) p.6


05085
とはに続かむ幸と思ひきリアス海岸の入江の街に君と住みつつ
トハニツヅカム サチトオモヒキ リアスカイガンノ イリエノマチニ キミトスミツツ

『形成』(形成発行所 1955.2) 第3巻2号(通巻22号) p.6


05086
北の涯の海のひびきのなつかしく失ひし夢また復るなし
キタノハテノ ウミノヒビキノ ナツカシク ウシナヒシユメ マタカヘルナシ

『形成』(形成発行所 1955.2) 第3巻2号(通巻22号) p.6


05087
今ひとつの絆絶つともなまなかの若さもちて長く苦しみゆかむ
イマヒトツノ キズナタツトモ ナマナカノ ワカサモチテナガク クルシミユカム

『形成』(形成発行所 1955.2) 第3巻2号(通巻22号) p.6


05088
秋草にうもれて返り咲くつつじ浅間はあはき噴煙をまとふ
アキクサニ ウモレテカエリ サクツツジ アサマハアハキ ケムリヲマトフ

『形成』(形成発行所 1955.2) 第3巻2号(通巻22号) p.6


05089
みたさるる日はとはになき思慕かとも秋草枯るる野に歩み出づ
ミタサルル ヒハトハニナキ シボカトモ アキクサカルル ノニアユミイヅ

『形成』(形成発行所 1955.2) 第3巻2号(通巻22号) p.6


05090
暮れ果つるまで浅間山見て帰り来ぬ日記を閉ぢてのびのびと寝む
クレハツルマデ アサマヤマミテ カエリキヌ ニッキヲトヂテ ノビノビトネム

『形成』(形成発行所 1955.2) 第3巻2号(通巻22号) p.6


05091
山裾の湿原をさまよひ来し一日帰らぬ人に又こころ寄る
ヤマスソノ シツゲンヲサマヨヒ コシヒトヒ カエラヌヒトニ マタココロヨル

『形成』(形成発行所 1955.2) 第3巻2号(通巻22号) p.6


05092
よろぼへる心よ深きつまづきを如何に処理して踏み石とせむ
ヨロボヘル ココロヨフカキ ツマヅキヲ イカニショリシテ フミイシトセム

『形成』(形成発行所 1955.2) 第3巻2号(通巻22号) p.6


05093
真向より恚り向け得む相手にあらぬこと又底ひなき寂しさを呼ぶ
マツカウヨリ イカリムケエムアイテニ アラヌコト マタソコヒナキ サビシサヲヨブ

『形成』(形成発行所 1955.2) 第3巻2号(通巻22号) p.6


05094
悔さへも深くちりばめて生きなむか自在に描く未来は遠し
クイサヘモ フカクチリバメテ イキナムカ ジザイニエガク ミライハトオシ

『形成』(形成発行所 1955.2) 第3巻2号(通巻22号) p.6