夜の落葉


05095
何か秘めおく如く鍵しめ部屋を出づ散り透きて明るき朝の道なり
ナニカヒメオク ゴトクカギシメ ヘヤヲイヅ チリスキテアカルキ アサノミチナリ

『形成』(形成発行所 1955.3) 第3巻3号(通巻23号) p.60


05096
われの外開くる人なき部屋の鍵をりふしバッグの底にて鳴れり
ワレノホカ アクルヒトナキ ヘヤノカギ ヲリフシバッグノ ソコニテナレリ

『形成』(形成発行所 1955.3) 第3巻3号(通巻23号) p.60


05097
帰らざる幾月ドアの合鍵の一つを今も君は持ちゐるらむか
カエラザル イクツキドアノ アイカギノ ヒトツヲイマモキミハ モチヰルラムカ

『形成』(形成発行所 1955.3) 第3巻3号(通巻23号) p.60


05098
別れ住む間さへ苛まれゐる身よ落葉に埋れてしまひたくなる
ワカレスム マサヘサイナマレ ヰルミヨ オチバニウモレテ シマヒタクナル

『形成』(形成発行所 1955.3) 第3巻3号(通巻23号) p.60


05099
散漫になる夜の心まどろめば聖アンネの像がまなうらに来る
サンマンニ ナルヨノココロ マドロメバ セイアンネノゾウガ マナウラニクル

『形成』(形成発行所 1955.3) 第3巻3号(通巻23号) p.60


05100
アンカットのまま重ねおく詩集一つ徒労とも思ふわが仕事ふえゆく
アンカットノ ママカサネオク シシュウヒトツ トロウトモオモフワガ シゴトフエユク

『形成』(形成発行所 1955.3) 第3巻3号(通巻23号) p.60


05101
青年演劇グループ公演の取材終へ帰り来て冷えし飯を噛みしむ
セイネンエンゲキ グループコウエンノ シュザイオヘ カエリキテヒエシ イヒヲカミシム

『形成』(形成発行所 1955.3) 第3巻3号(通巻23号) p.60


05102
期末の仕事に誰も疲れてゆく日々に言葉やさしきわれと思へり
キマツノシゴトニ タレモツカレテ ユクヒビニ コトバヤサシキ ワレトオモヘリ

『形成』(形成発行所 1955.3) 第3巻3号(通巻23号) p.60


05103
校正刷りの届くを待ちて夜となりぬ手伝はむといふ少女と煉炭に寄る
コウセイズリノ トドクヲマチテ ヨトナリヌ テツダハムトイフショウジョト レンタンニヨル

『形成』(形成発行所 1955.3) 第3巻3号(通巻23号) p.60


05104
思ひまうけぬ憎悪の語聞き来し今日の会何の信号か遠き視界に光る
オモヒマウケヌ ゾウオノゴキキコシ キョウノカイ ナンノシンゴウカトオキ シカイニヒカル

『形成』(形成発行所 1955.3) 第3巻3号(通巻23号) p.60


05105
跪きて砂漠に祈るターバンの群の一人たりしが汗ばみてめざむ
ヒザマズキテ サバクニイノル ターバンノ ムレノヒトリタリシガ アセバミテメザム

『形成』(形成発行所 1955.3) 第3巻3号(通巻23号) p.60