春寒


05121
感化院を出で来るといふ少年をあたたかく待つかの家なれよ
カンカインヲ イデクルトイフ ショウネンヲ アタタカクマツ カノイエナレヨ

『形成』(形成発行所 1955.5) 第3巻5号(通巻25号) p.9


05122
亡き母を忘れ得ず家をぬけ出でては罪重ねたる白痴少年
ナキハハヲ ワスレエズイエヲ ヌケイデテハ ツミカサネタル ハクチショウネン

『形成』(形成発行所 1955.5) 第3巻5号(通巻25号) p.9


05123
誘はれし講中にも行かずわがために餡など漉して母は待ちゐつ
サソハレシ カウヂユウニモユカズ ワガタメニ アンナドコシテ ハハハマチヰツ

『形成』(形成発行所 1955.5) 第3巻5号(通巻25号) p.9


05124
両親なき友らの就職の難きこと今日切実に妹の言ふ
リョウシンナキ トモラノシュウショクノ カタキコト キョウセツジツニ イモウトノイフ

『形成』(形成発行所 1955.5) 第3巻5号(通巻25号) p.9


05125
逆説とばかりとられしわが言葉インコの籠覗きてより部屋に入る
ギャクセツト バカリトラレシ ワガコトバ インコノカゴノゾキテ ヨリヘヤニイル

『形成』(形成発行所 1955.5) 第3巻5号(通巻25号) p.9


05126
まぎれ入りし野生小雀もインコらと共に少女は育てむとする
マギレイリシ ヤセイコガラモ インコラト トモニショウジョハ ソダテムトスル

『形成』(形成発行所 1955.5) 第3巻5号(通巻25号) p.9


05127
わが卓の花の水今朝も替へくれて嫁ぐ日近き少女明るし
ワガタクノ ハナノミズケサモ カヘクレテ トツグヒチカキ オトメアカルシ

『形成』(形成発行所 1955.5) 第3巻5号(通巻25号) p.9


05128
ねぎらはれゐたるを思ふ別れ来て夜の靄にまぎるる如く歩めり
ネギラハレ ヰタルヲオモフ ワカレキテ ヨノモヤニマギルル ゴトクアユメリ

『形成』(形成発行所 1955.5) 第3巻5号(通巻25号) p.9


05129
迂曲しつつ生くる身と思ひ歩めるにキャメラマンが肩聳して過ぐ
ウキョクシツツ イクルミトオモヒ アユメルニ キャメラマンガカタ ソビヤカシテスグ

『形成』(形成発行所 1955.5) 第3巻5号(通巻25号) p.9


05130
冬枯れの草山に来て何憶ふ今はたれより遠きかの人
フユガレノ クサヤマニキテ ナニオモフ イマハタレヨリ トオキカノヒト

『形成』(形成発行所 1955.5) 第3巻5号(通巻25号) p.9


05131
蓆旗立てて坐り込まむと決めしとぞ拙き策よとわが胸痛む
ムシロバタ タテテスワリコマムト キメシトゾ ツタナキサクヨト ワガムネイタム

『形成』(形成発行所 1955.5) 第3巻5号(通巻25号) p.9


05132
結論を得しならむ部落解放委員ら冷や酒酌みて酔ひゆくらしも
ケツロンヲ エシナラムブラク カイホウイインラ ヒヤザケクミテ ヨヒユクラシモ

『形成』(形成発行所 1955.5) 第3巻5号(通巻25号) p.9