起伏


05143
裏山にわらび萌えゐむ故郷を勤めに出づる朝々に恋ふ
ウラヤマニ ワラビモエヰム フルサトヲ ツトメニイヅル アサアサニコフ

『形成』(形成発行所 1955.7) 第3巻7号(通巻27号) p.60


05144
かたはらにおく幻の椅子一つあくがれて待つ夜もなし今は
カタハラニ オクマボロシノ イスヒトツ アクガレテマツ ヨモナシイマハ

『形成』(形成発行所 1955.7) 第3巻7号(通巻27号) p.60


05145
たはやすき未来ならず今の平衡の永き持続を恃まむとする
タハヤスキ ミライナラズイマノ ヘイコウノ ナガキジゾクヲ タノマムトスル

『形成』(形成発行所 1955.7) 第3巻7号(通巻27号) p.60


05146
ながくわれを苛める貌もわが中に嚙み砕かれて像を結ばず
ナガクワレヲ サイナメルカホモ ワガナカニ カミクダカレテ ゾウヲムスバズ

『形成』(形成発行所 1955.7) 第3巻7号(通巻27号) p.60


05147
われを伴ひて遁れむと言ふノアもなし裾濡らし雨の舗道を帰る
ワレヲトモナヒテ ノガレムトイフ ノアモナシ スソヌラシアメノ ホドウヲカエル

『形成』(形成発行所 1955.7) 第3巻7号(通巻27号) p.60


05148
心渇く日々と思ふに野薔薇はグラスの水吸ひ上げて次々に咲く
ココロカワク ヒビトオモフニ ノイバラハ グラスノミズスヒアゲテ ツギツギニサク

『形成』(形成発行所 1955.7) 第3巻7号(通巻27号) p.60


05149
何に乱れてゐたる心ぞ沖遠きいさり火もいつか消えて跡なし
ナンニミダレテ ヰタルココロゾ オキトオキ イサリビモイツカ キエテアトナシ

『形成』(形成発行所 1955.7) 第3巻7号(通巻27号) p.60


05150
葉の色にまがふひそかな花を持つ木ありしきりに樹脂を匂はす
ハノイロニ マガフヒソカナ ハナヲモツ キアリシキリニ ジュシヲニオハス

『形成』(形成発行所 1955.7) 第3巻7号(通巻27号) p.60


05151
神々も渇く夜あらむわがひとり夜更くればまた眠る外なく
カミガミモ カワクヨアラム ワガヒトリ ヨフクレバマタ ネムルホカナク

『形成』(形成発行所 1955.7) 第3巻7号(通巻27号) p.60


05152
風落ちてまた雨となれる夜半に覚む猜疑より遁るる如く眠りし
カゼオチテ マタアメトナレル ヨワニサム サイギヨリノガルル ゴトクネムリシ

『形成』(形成発行所 1955.7) 第3巻7号(通巻27号) p.60