短夜


05153
雨あとの土の匂へる井戸端にインコにやらむ青菜を洗ふ
アメアトノ ツチノニオヘル イドバタニ インコニヤラム アオナヲアラフ

『形成』(形成発行所 1955.8) 第3巻8号(通巻28号) p.7


05154
停年近き掃除婦たちにも頼られて弱音は吐けぬわれぞと思ふ
テイネンチカキ ソウジフタチニモ タヨラレテ ヨワネハハケヌ ワレゾトオモフ

『形成』(形成発行所 1955.8) 第3巻8号(通巻28号) p.7


05155
インターヴューを終へ来てくだる丘の道風にとぎれつつ麦笛聞ゆ
インターヴューヲ オヘキテクダル オカノミチ カゼニトギレツツ ムギブエキコユ

『形成』(形成発行所 1955.8) 第3巻8号(通巻28号) p.7


05156
取材終へて辻にバス待つ傍らをわらび摘み来し子ら帰りゆく
シュザイオヘテ ツジニバスマツ カタワラヲ ワラビツミコシ コラカエリユク

『形成』(形成発行所 1955.8) 第3巻8号(通巻28号) p.8


05157
ゆられつつまどろめる時バスとまり田植ゑ帰りの乙女らを乗す
ユラレツツ マドロメルトキ バストマリ タウヱガエリノ オトメラヲノス

『形成』(形成発行所 1955.8) 第3巻8号(通巻28号) p.8


05158
人を待てるさまと見しゆゑ声をかけず駅前の雑沓に紛れ入り来ぬ
ヒトヲマテル サマトミシユヱ コエヲカケズ エキマエノザツトウニ マギレイリキヌ

『形成』(形成発行所 1955.8) 第3巻8号(通巻28号) p.8


05159
散りしける売子木の花掃く土の上わが呟きを聴く人もなし
チリシケル エゴノハナハク ツチノウエ ワガツブヤキヲ キクヒトモナシ

『形成』(形成発行所 1955.8) 第3巻8号(通巻28号) p.8


05160
欝結のほぐるるを待つ如き夜々レースの小花編みためてゆく
ウッケツノ ホグルルヲマツ ゴトキヨヨ レースノコバナ アミタメテユク

『形成』(形成発行所 1955.8) 第3巻8号(通巻28号) p.8


05161
まざまざとわれは書きたし自らの傷嘗めて堪へ来し永き経緯を
マザマザト ワレハカキタシ ミズカラノ キズナメテタヘコシ ナガキケイイヲ

『形成』(形成発行所 1955.8) 第3巻8号(通巻28号) p.8


05162
尾行されつつ句会に集ふ苦しみも超えむと言へり若き一人は
ビコウサレツツ クカイニツドフ クルシミモ コエムトイヘリ ワカキヒトリハ

『形成』(形成発行所 1955.8) 第3巻8号(通巻28号) p.8


05163
理解さるるを故意に拒むと思はれむ応へ少く人と歩めり
リカイサルルヲ コイニコバムト オモハレム イラヘスクナク ヒトトアユメリ

『形成』(形成発行所 1955.8) 第3巻8号(通巻28号) p.8