経緯


05164
算盤をおきゐたる小女身軽に立ち来て騰写終へしわれらに茶をいれくるる
ソロバンヲ オキヰタルショウジョ ミガルニタチキテ トウシャオヘシワレラニ チャヲイレクルル

『形成』(形成発行所 1955.9) 第3巻9号(通巻29号) p.5


05165
扇風機を備へつけたれば炊事婦君もこの夏は幾らか働きよからむ
センプウキヲ ソナヘツケタレバ スイジフクンモ コノナツハイクラカ ハタラキヨカラム

『形成』(形成発行所 1955.9) 第3巻9号(通巻29号) p.5


05166
飯盒の噴きたるを機に宿直の同僚の饒舌よりのがれて帰る
ハンゴウノ フキタルヲシホニ シュクチョクノ トモノジョウゼツヨリ ノガレテカエル

『形成』(形成発行所 1955.9) 第3巻9号(通巻29号) p.5


05167
学問する程女は不幸になるといふ論に反撥しつつ寂しくなりぬ
ガクモンスルホド オンナハフコウニ ナルトイフ ロンニハンパツシツツ サビシクナリヌ

『形成』(形成発行所 1955.9) 第3巻9号(通巻29号) p.5


05168
傷つけ合ふを避けて帰らむ孤独の深みにて吐くかたみの言葉
キズツケアフヲ サケテカエラム コドクノ フカミニテハク カタミノコトバ

『形成』(形成発行所 1955.9) 第3巻9号(通巻29号) p.5


05169
わが教へ子が夫の教へ子に嫁ぐ知らせ届きぬ夫の帰らぬ家に
ワガオシヘゴガ ツマノオシヘゴニ トツグシラセ トドキヌツマノ カエラヌイエニ

『形成』(形成発行所 1955.9) 第3巻9号(通巻29号) p.5


05170
何もかも見抜きていまさむ元気を出せと最後に言ひて電話切り給ふ
ナニモカモ ミヌキテイマサム ゲンキヲダセト サイゴニイヒテ デンワキリタマフ

『形成』(形成発行所 1955.9) 第3巻9号(通巻29号) p.5


05171
なまなかの批判には屈せずなりて来て悲しみは不意に内より湧き来
ナマナカノ ヒハンニハクッセズ ナリテキテ カナシミハフイニ ウチヨリワキク

『形成』(形成発行所 1955.9) 第3巻9号(通巻29号) p.5


05172
雨の音聴きつつ夜半を目覚めゐて濡れて光りゐむ木膚を思ふ
アメノオト キキツツヨワヲ メザメヰテ ヌレテヒカリヰム キハダヲオモフ

『形成』(形成発行所 1955.9) 第3巻9号(通巻29号) p.5


05173
諧調を求むるこころ夜更けてヴィオリンの絃引き緊めてゆく
カイチヨウヲ モトムルココロ ヨルフケテ ヴィオリンノイト ヒキシメテユク

『形成』(形成発行所 1955.9) 第3巻9号(通巻29号) p.5


05174
刹那々々に生くる狂喜もわが知らず流浪者の唄弾きつつ寂し
セツナセツナニ イクルキョウキモ ワガシラズ チゴイネルワイゼン ヒキツツサビシ

『形成』(形成発行所 1955.9) 第3巻9号(通巻29号) p.5


05175
アンダルシアの野とも岩手の野とも知れずジプシーは彷徨ひゆけりわが夢に
アンダルシアノ ノトモイワテノ ノトモシレズ ジプシーハサマヨヒ ユケリワガユメニ

『形成』(形成発行所 1955.9) 第3巻9号(通巻29号) p.5


05176
夢さめて胸ははづめり何に追はれて駈けゐしかと闇に目あきて思ふ
ユメサメテ ムネハハヅメリ ナンニオハレテ カケヰシカトヤミニ メアキテオモフ

『形成』(形成発行所 1955.9) 第3巻9号(通巻29号) p.5


05177
み手の線美しとのみ見ゐし月光像いま仰ぎなば涙あふれむ
ミテノセン ウツクシトノミミヰシ ガッコウゾウ イマアオギナバ ナミダアフレム

『形成』(形成発行所 1955.9) 第3巻9号(通巻29号) p.6