秋深む


05190
妹の届けくれし木犀匂ふ部屋仮名習はむと墨をすりゆく
イモウトノ トドケクレシモクセイ ニオフヘヤ カナナラハムト スミヲスリユク

『形成』(形成発行所 1955.11) 第3巻11号(通巻31号) p.5


05191
今は誰にも見することなきわが素顔霧笛は鳴れり夜の海原に
イマハタレニモ ミスルコトナキ ワガスガオ ムテキハナレリ ヨノウナバラニ

『形成』(形成発行所 1955.11) 第3巻11号(通巻31号) p.5


05192
身代りに何を沈めて戻るべきいどむ如く来る夜の満ち潮
ミガワリニ ナニヲシズメテ モドルベキ イドムゴトククル ヨルノミチシオ

『形成』(形成発行所 1955.11) 第3巻11号(通巻31号) p.6


05193
わが中の脆き一面を怖るるに近よりて不意に君は肩をたたく
ワガナカノ モロキイチメンヲ オソルルニ チカヨリテフイニ キミハカタヲタタク

『形成』(形成発行所 1955.11) 第3巻11号(通巻31号) p.6


05194
乱されぬ理路を信じて生き得るや髪とかしつつ朝より疲る
ミダサレヌ リロヲシンジテ イキエルヤ カミトカシツツ アサヨリツカレル

『形成』(形成発行所 1955.11) 第3巻11号(通巻31号) p.6


05195
不満の種をつねに探しゐるごとき君語り終るを待ちつつ寂し
フマンノタネヲ ツネニサガシヰル ゴトキキミ カタリオワルヲ マチツツサビシ

『形成』(形成発行所 1955.11) 第3巻11号(通巻31号) p.6


05196
寂しくてかけし電話と知る君か陶芸展の切符送りくれたり
サビシクテ カケシデンワト シルキミカ トウゲイテンノキップ オクリクレタリ

『形成』(形成発行所 1955.11) 第3巻11号(通巻31号) p.6


05197
今朝は職場に帰りゆくわれに柚子匂ふ朝餉を母はしつらひくるる
ケサハショクバニ カエリユクワレニ ユズニオフ アサゲヲハハハ シツラヒクルル

『形成』(形成発行所 1955.11) 第3巻11号(通巻31号) p.6