寂しき電話


05198
酔へば寂しがりやになる夫なりき偽名してかけ来し電話切れど危ふし
ヨヘバサビシガリヤニ ナルツマナリキ ギメイシテ カケコシデンワ キレドアヤフシ

『形成』(形成発行所 1955.12) 第3巻12号(通巻32号) p.8


05199
二年経て机の位置も書棚もそのままなるを不思議のごとく夫は眺むる
ニネンヘテ ツクエノイチモショダナモ ソノママナルヲ フシギノゴトク ツマハナガムル

『形成』(形成発行所 1955.12) 第3巻12号(通巻32号) p.8


05200
共に死なむと言ふ夫を宥め帰しやる冷きわれと醒めて思ふや
トモニシナムト イフツマヲナダメ カエシヤル ツメタキワレト サメテオモフヤ

『形成』(形成発行所 1955.12) 第3巻12号(通巻32号) p.8


05201
死ぬ時はひとりで死ぬと言ひ切りてこみあぐる涙堪へむとしたり
シヌトキハ ヒトリデシヌト イヒキリテ コミアグルナミダ タヘムトシタリ

『形成』(形成発行所 1955.12) 第3巻12号(通巻32号) p.8


05202
ドラマの中の女ならば如何にか哭きたらむ灯を消してわれの眠らむとする
ドラマノナカノ オンナナラバイカニカ ナキタラム ヒヲケシテワレノ ネムラムトスル

『形成』(形成発行所 1955.12) 第3巻12号(通巻32号) p.8


05203
ひとたびは葛藤の中に身を投じ質さねばならぬ理路とも思ふ
ヒトタビハ カットウノナカニ ミヲトウジ タダサネバナラヌ リロトモオモフ

『形成』(形成発行所 1955.12) 第3巻12号(通巻32号) p.8


05204
妻とふ名に執するごとき生き方も苦しみてわが超えねばならぬ
ツマトフナニ シュウスルゴトキ イキカタモ クルシミテワガ コエネバナラヌ

『形成』(形成発行所 1955.12) 第3巻12号(通巻32号) p.8


05205
いつまでも待つと言ひしかば鎮まりて帰りゆきしかそれより逢はず
イツマデモ マツトイヒシカバ シズマリテ カエリユキシカ ソレヨリアハズ

『形成』(形成発行所 1955.12) 第3巻12号(通巻32号) p.8


05206
一枚の教員免許状が今は終生のよりどと思ひ涙こぼれつ
イチマイノ キョウインメンキョジョウガ イマハシュウセイノ ヨリドトオモヒ ナミダコボレツ

『形成』(形成発行所 1955.12) 第3巻12号(通巻32号) p.8


05207
さまざまの見方されゐるわれと知る酔ひし友に今日は貞女と呼ばる
サマザマノ ミカタサレヰル ワレトシル ヨヒシトモニキョウハ テイジョトヨバル

『形成』(形成発行所 1955.12) 第3巻12号(通巻32号) p.8


05208
忽ちに遁しし幸よ用のなくなりしリキュールグラスを磨く
タチマチニ ノガシシサチヨ ヨウノナク ナリシリキュール グラスヲミガク

『形成』(形成発行所 1955.12) 第3巻12号(通巻32号) p.8


05209
蚊遣りの匂ひ残れる部屋にめざめゐつ寂しき朝にも馴れて久しき
カヤリノニオヒ ノコレルヘヤニ メザメヰツ サビシキアサニモ ナレテヒサシキ

『形成』(形成発行所 1955.12) 第3巻12号(通巻32号) p.8


05210
いつとなく寂しき雰囲気漂はすわれならずやと思ふ勤め終へ来て
イツトナク サビシキフンイキ タダヨハス ワレナラズヤトオモフ ツトメオヘキテ

『形成』(形成発行所 1955.12) 第3巻12号(通巻32号) p.8