湖心


05211
幾通の原稿依頼書き終へて事務服のまま投函に出づ
イクツウノ ゲンコウイライ カキオヘテ ジムフクノママ トウカンニイヅ

『形成』(形成発行所 1956.1) 第4巻1号(通巻33号) p.5


05212
出でて来て没り陽に草の影を踏む行き詰らむと言はれしことの寂しく
イデテキテ イリヒニクサノ カゲヲフム ユキツマラムトイハレシ コトノサビシク

『形成』(形成発行所 1956.1) 第4巻1号(通巻33号) p.6


05213
女ゆゑにスムースにゆくといふ陰口もされつつきりのなき仕事に追はる
オンナユヱニ スムースニユクトイフ カゲグチモ サレツツキリノナキ シゴトニオハル

『形成』(形成発行所 1956.1) 第4巻1号(通巻33号) p.6


05214
日給をとるやうになりて明るき少年自転車借りに来て話しかく
ニッキュウヲ トルヤウニナリテ アカルキショウネン ジテンシャカリニ キテハナシカク

『形成』(形成発行所 1956.1) 第4巻1号(通巻33号) p.6


05215
偸安と言はれむかショパンのレコードも一二枚づつ買ひ揃へゆく
トウアント イハレムカショパンノ レコードモ イチニマイヅツ カヒソロヘユク

『形成』(形成発行所 1956.1) 第4巻1号(通巻33号) p.6


05216
日誌にはさみて秘めおく葉書読み返し或る夜は寂びし悖徳のごと
ニッシニハサミテ ヒメオクハガキ ヨミカエシ アルヨハサビシ ハイトクノゴト

『形成』(形成発行所 1956.1) 第4巻1号(通巻33号) p.6


05217
遠けれど湖のある村と知れば明日の出張をたのしみて寝る
トオケレド ミズウミノアル ムラトシレバ アスノシュッチョウヲ タノシミテネル

『形成』(形成発行所 1956.1) 第4巻1号(通巻33号) p.6


05218
草生分けて道に出づればイムメン湖のごとき湖木の間に見え来
クサフワケテ ミチニイヅレバ イムメンコノ ゴトキミズウミ コノマニミエク

『形成』(形成発行所 1956.1) 第4巻1号(通巻33号) p.6


05219
水門を閉ぢし人も去りたる湖に風吹けばまたささなみのたつ
スイモンヲ トヂシヒトモサリタル ミズウミニ カゼフケバマタ ササナミノタツ

『形成』(形成発行所 1956.1) 第4巻1号(通巻33号) p.6


05220
穂草そよぐ道のかたへに少女ひとり画架たてて白きホテルを描く
ホクサソヨグ ミチノカタヘニ ショウジョヒトリ ガカタテテシロキ ホテルヲエガク

『形成』(形成発行所 1956.1) 第4巻1号(通巻33号) p.6