火山灰地


05221
返信を強ひ来し手紙も溜めしまま旅ゆかむ願ひのみつのりゆく
ヘンシンヲ シヒコシテガミモ タメシママ タビユカムネガヒ ノミツノリユク

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6


05222
碓氷越えてまたも旅ゆくわれのこと伝はりゆきて君に如何に響くぞ
ウスヒコエテ マタモタビユク ワレノコト ツタハリユキテキミニ イカニヒビクゾ

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6


05223
這い松の青むのみなる火口原またひとしきり砂塵はしまく
ハイマツノ アオムノミナル カコウゲン マタヒトシキリ サジンハシマク

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6


05224
夢に見しは無風の曠野ぞ火山礫を吹き飛ばし来る風にたじろぐ
ユメニミシハ ムフウノコウヤゾ カザンレキヲ フキトバシクル カゼニタジログ

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6


05225
風つのる火山灰地のただなかにまた人を降しバスは去りゆく
カゼツノル カザンバイチノ タダナカニ マタヒトヲオロシ バスハサリユク

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6


05226
何に執して苦しめる身ぞ岩漿はたたなはり劫初の地形をとどむ
ナンニシュウシテ クルシメルミゾ ガンショウハ タタナハリゴウショノ チケイヲトドム

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6


05227
昏れてゆく岩場にひとりバス待てば虜囚の思ひ身にきざし来る
クレテユク イワバニヒトリ バスマテバ リョシュウノオモヒ ミニキザシクル

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6


05228
まざまざと硫黄匂へば目を閉ぢて火口丘をくだるバスにゆらるる
マザマザト イオウニオヘバ メヲトヂテ カコウキュウヲクダル バスニユラルル

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6


05229
永劫の荒蕪と思ふ野を過ぎて穂すすきそよぐ一地帯あり
エイゴウノ コウブトオモフ ノヲスギテ ホススキソヨグ イチチタイアリ

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6


05230
荻叢に野川あふるるひとところ何ぞ踏み越えがたき思ひは
ヲギムラニ ノガワアフルル ヒトトコロ ナニゾフミコエ ガタキオモヒハ

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6


05231
山上の驟雨に撃たれ来しこころ何か見失はむ危惧に眠れず
ヤマガミノ シュウウニウタレ コシココロ ナニカミウシナハム キグニネムレズ

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6


05232
山原の不毛を見尽くし来て幾日遠く光りゐたる湖を恋ふ
ヤマハラノ フモウヲミツクシ キテイクヒ トオクヒカリヰタル ミズウミヲコフ

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6


05233
たどきなく耳を澄ませば身もだえて落葉を急ぐ樹々と思ほゆ
タドキナク ミミヲスマセバ ミモダエテ ラクエフヲイソグ キギトオモホユ

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6


05234
女の智慧の足らはざりしを悔みたる日々もやうやく闌けし思ひす
オンナノチエノ タラハザリシヲ クヤミタル ヒビモヤウヤク タケシオモヒス

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6


05235
君の小説には描き得ざらむわが焦土いつよりか泉湧く苑を秘む
キミノショウセツニハ エガキエザラム ワガショウド イツヨリカイズミ ワクソノヲヒム

『形成』(形成発行所 1956.2) 第4巻2号(通巻34号) p.6