冬草


05236
妹の炊ぐ飯匂ひくる夕べ柚子もぎに行ける母も帰らむ
イモウトノ カシグイヒニオヒ クルユウベ ユズモギニユケル ハハモカエラム

『形成』(形成発行所 1956.3) 第4巻3号(通巻35号) p.7


05237
身動きならぬ思ひに澱むわがいまの静謐をさへ母は恃めり
ミウゴキナラヌ オモヒニヨドム ワガイマノ セイヒツヲサヘ ハハハタノメリ

『形成』(形成発行所 1956.3) 第4巻3号(通巻35号) p.7


05238
何時われの書き散らしたる音譜ならむ古きノートより五線紙の出づ
イツワレノ カキチラシタル オンプナラム フルキノートヨリ ゴセンシノイヅ

『形成』(形成発行所 1956.3) 第4巻3号(通巻35号) p.8


05239
母にも知らせず幾日かをひとり病む部屋にサフランの蕾ふくらみ初む
ハハニモシラセズ イクヒカヲヒトリ ヤムヘヤニ サフランノツボミ フクラミハジム

『形成』(形成発行所 1956.3) 第4巻3号(通巻35号) p.8


05240
事毎に家風とふ言葉もて責むる姑に抗ひきわれも若かりしかば
コトゴトニ カフウトフコトバ モテセムル シュウトニアガラヒキワレモ ワカカリシカバ

『形成』(形成発行所 1956.3) 第4巻3号(通巻35号) p.8


05241
姑とわれと夫とそれぞれ離り住みとりとめもなし春近くして
シュウトトワレト ツマトソレゾレ ハナリスミ トリトメモナシ ハルチカクシテ

『形成』(形成発行所 1956.3) 第4巻3号(通巻35号) p.8


05242
幾年の曲折を経つつ姑もまた寂しき人とのみ思ひなし来ぬ
イクトセノ キョクセツヲヘツツ シュウトモマタ サビシキヒトトノミ オモヒナシキヌ

『形成』(形成発行所 1956.3) 第4巻3号(通巻35号) p.8


05243
感情を押し鎮め来てはや二年夫と住む女性は見たることなし
カンジョウヲ オシシズメキテ ハヤニネン ツマトスムジョセイハ ミタルコトナシ

『形成』(形成発行所 1956.3) 第4巻3号(通巻35号) p.8


05244
思ひ描く完結の仕方何れも寂し蘇へる愛とも信じ得ずなりて
オモヒエガク カンケツノシカタ イズレモサビシ ヨミガヘルアイトモ シンジエズナリテ

『形成』(形成発行所 1956.3) 第4巻3号(通巻35号) p.8


05245
銅貨投げて愛を占ふといふローマの泉幾夜の夢に光りてやまず
ドウカナゲテ アイヲウラナフトイフ ローマノイズミ イクヨノユメニ ヒカリテヤマズ

『形成』(形成発行所 1956.3) 第4巻3号(通巻35号) p.8


05246
漸くに巣を出でしインコの雛の水換へてより日直の仕事を始む
ヨウヤクニ スヲイデシインコノ ヒナノミズ カヘテヨリニッチョクノ シゴトヲハジム

『形成』(形成発行所 1956.3) 第4巻3号(通巻35号) p.8