遠景


05247
何に倦める妹ぞ港を見にゆかむとせがまれて共に横浜へ来つ
ナンニウメル イモウトゾミナトヲ ミニユカムト セガマレテトモニ ヨコハマヘキツ

『形成』(形成発行所 1956.4) 第4巻4号(通巻36号) p.6


05248
道ばたに諍へる異人のそば過ぎて噴水ひかる公園に出づ
ミチバタニ イサカヘルイジンノ ソバスギテ フンスイヒカル コウエンニイヅ

『形成』(形成発行所 1956.4) 第4巻4号(通巻36号) p.6


05249
枯れ葦のさやぐ音聴けば乱反射してゐむ夜の水面を恋ふ
カレアシノ サヤグオトキケバ ランハンシャ シテヰムヨルノ スイメンヲコフ

『形成』(形成発行所 1956.4) 第4巻4号(通巻36号) p.6


05250
つきつめて思へることなべて遠景となりゆく如し朝霧ながる
ツキツメテ オモヘルコトナベテ エンケイト ナリユクゴトシ アサギリナガル

『形成』(形成発行所 1956.4) 第4巻4号(通巻36号) p.6


05251
しづかなる旅の終りよ外人墓地をかたへに見つつ坂くだりゆく
シヅカナル タビノオワリヨ ガイジンボチヲ カタヘニミツツ サカクダリユク

『形成』(形成発行所 1956.4) 第4巻4号(通巻36号) p.6


05252
終戦を知らで逝きしを語りつつ慰むか父の忌の夜の母よ
シュウセンヲ シラデユキシヲ カタリツツ ナグサムカチチノ キノヨノハハヨ

『形成』(形成発行所 1956.4) 第4巻4号(通巻36号) p.6


05253
G線の切れしままなるヴァイオリンのこと思ひ出でて夜半をひとり寂しむ
ゲイセンノ キレシママナル ヴァイオリンノコト オモヒイデテヨワヲ ヒトリサビシム

『形成』(形成発行所 1956.4) 第4巻4号(通巻36号) p.7


05254
雪の夜の更けて寂しも遠くよりわが名呼びて近づく声はあらずや
ユキノヨノ フケテサビシモ トオクヨリ ワガナヨビテチカヅク コエハアラズヤ

『形成』(形成発行所 1956.4) 第4巻4号(通巻36号) p.7


05255
原書にて読むリラダンの短編のたのしさも今日妹は告ぐ
ゲンショニテ ヨムリラダンノ タンペンノ タノシサモキョウ イモウトハツグ

『形成』(形成発行所 1956.4) 第4巻4号(通巻36号) p.7


05256
嫁げば必ず不幸になると思へるや妹を帰してよりながく寂しむ
トツゲバカナラズ フコウニナルト オモヘルヤ イモウトヲカエシテヨリ ナガクサビシム

『形成』(形成発行所 1956.4) 第4巻4号(通巻36号) p.7


05257
先生を持つが羡しと酔へる友に言はれしより涙ぐみて歩めり
センセイヲ モツガトモシト ヨヘルトモニ イハレシヨリナミダ グミテアユメリ

『形成』(形成発行所 1956.4) 第4巻4号(通巻36号) p.7


05258
送られて帰りし記憶寂しきにいつまでも道に斑雪は残る
オクラレテ カエリシキオク サビシキニ イツマデモミチニ ハダレハノコル

『形成』(形成発行所 1956.4) 第4巻4号(通巻36号) p.7


05259
静かなる影おく木立遠ければ虚しきものをまた恋はむとす
シズカナル カゲオクコダチ トオケレバ ムナシキモノヲ マタコハムトス

『形成』(形成発行所 1956.4) 第4巻4号(通巻36号) p.7


05260
放埓の限りに小説書く夫を宿業のごとも或る夜は思ふ
ホウラツノ カギリニショウセツ カクツマヲ シュクゴウノゴトモ アルヨハオモフ

『形成』(形成発行所 1956.4) 第4巻4号(通巻36号) p.7