落花


05261
校正室のわれに幾度も来る電話かかる怱忙をいつよりか愛す
コウセイシツノ ワレニイクドモ クルデンワ カカルソウボウヲ イツヨリカアイス

『形成』(形成発行所 1956.5) 第4巻5号(通巻37号) p.5


05262
出まかせを言ふ少女よと危ぶむにひらり自転車に乗りて帰りゆく
デマカセヲ イフショウジョヨト アヤブムニ ヒラリジテンシャニ ノリテカエリユク

『形成』(形成発行所 1956.5) 第4巻5号(通巻37号) p.5


05263
橋材に堰かれつつ流れゆくばかり河はつくづく海より寂し
ハシザイニ セカレツツナガレ ユクバカリ カワハツクヅク ウミヨリサビシ

『形成』(形成発行所 1956.5) 第4巻5号(通巻37号) p.5


05264
落葉松の芽吹きの匂ふ夜の風に吹きちぎられてひとり歩めり
カラマツノ メブキノニオフ ヨノカゼニ フキチギラレテ ヒトリアユメリ

『形成』(形成発行所 1956.5) 第4巻5号(通巻37号) p.5


05265
好意もつゆゑの批判と知ることもはかなし起ちて帰りゆくべし
コウイモツ ユヱノヒハント シルコトモ ハカナシタチテ カエリユクベシ

『形成』(形成発行所 1956.5) 第4巻5号(通巻37号) p.5


05266
幾日目かに探し当てて友が書きくれし夫の住むとふアパートの地図
イクニチメカニ サガシアテテトモガ カキクレシ ツマノスムトフ アパートノチズ

『形成』(形成発行所 1956.5) 第4巻5号(通巻37号) p.5


05267
月の光にて桜を見むと眠られぬ夜半池のべにひとり出でゆく
ツキノヒカリニテ サクラヲミムト ネムラレヌ ヨワイケノベニ ヒトリイデユク

『形成』(形成発行所 1956.5) 第4巻5号(通巻37号) p.5


05268
仕事も歌もつひに虚しと思ふ夜に堪へつつ沸かすコーヒー匂ふ
シゴトモウタモ ツヒニムナシト オモフヨニ タヘツツワカス コーヒーニオフ

『形成』(形成発行所 1956.5) 第4巻5号(通巻37号) p.5


05269
G線を張り替へて弾くヴァイオリン誰が名器より冽き音たてよ
ゲイセンヲ ハリカヘテヒク ヴァイオリン タガメイキヨリ キヨキネタテヨ

『形成』(形成発行所 1956.5) 第4巻5号(通巻37号) p.5