季春


05270
声嗄れてけうとき午後の窓の外何か倒れてはや音もなし
コエカレテ ケウトキゴゴノ マドノソト ナニカタオレテ ハヤオトモナシ

『形成』(形成発行所 1956.6) 第4巻6号(通巻38号) p.6


05271
小さき籠に移されしつがひの頰白もいつか鎮まり夕昏れて来ぬ
チイサキカゴニ ウツサレシツガヒノ ホオジロモ イツカシズマリ ユウグレテキヌ

『形成』(形成発行所 1956.6) 第4巻6号(通巻38号) p.6


05272
夜をこめて松のしづれの音ばかり身を脅かす足音もなし
ヨヲコメテ マツノシヅレノ オトバカリ ミヲオビヤカス アシオトモナシ

『形成』(形成発行所 1956.6) 第4巻6号(通巻38号) p.6


05273
葉洩れ陽を乱しつつ飛ぶ蝶見ゐて忽ちわれは眩みてしまふ
ハモレビヲ ミダシツツトブ チョウミヰテ タチマチワレハ クラミテシマフ

『形成』(形成発行所 1956.6) 第4巻6号(通巻38号) p.6


05274
緑色の息たつごとき麦生来て憎しみに遠し今のこころも
リョクショクノ イキタツゴトキ ムギフキテ ニクシミニトオシ イマノココロモ

『形成』(形成発行所 1956.6) 第4巻6号(通巻38号) p.6


05275
作業衣の身につきし少年自転車よりバス待てるわれに声かけて過ぐ
オーバーオールノ ミニツキシショウネン ジテンシャヨリ バスマテルワレニ コエカケテスグ

『形成』(形成発行所 1956.6) 第4巻6号(通巻38号) p.6


05276
帰りのバスの窓より放たばよく飛ばむ風船を貰ひてデパートを出づ
カエリノバスノ マドヨリハナタバ ヨクトバム フウセンヲモラヒテ デパートヲイヅ

『形成』(形成発行所 1956.6) 第4巻6号(通巻38号) p.6


05277
会はば手をとりて泣かむなど思ひゐしわが甘さ姑は端然と坐す
アハバテヲ トリテナカムナド オモヒヰシ ワガアマサハハハ タンゼントザス

『形成』(形成発行所 1956.6) 第4巻6号(通巻38号) p.6


05278
姑としてかしづく最後の日と思ふ感傷にも紛れず長き苦渋は
シュウトトシテ カシヅクサイゴノ ヒトオモフ カンショウニモマギレズ ナガキクジュウハ

『形成』(形成発行所 1956.6) 第4巻6号(通巻38号) p.6


05279
雨しぶくホームに佇ちつくす無縁の人となるかも知れぬ姑を発たしめて
アメシブク ホームニタチツクス ムエンノヒトト ナルカモシレヌ ハハヲタタシメテ

『形成』(形成発行所 1956.6) 第4巻6号(通巻38号) p.6


05280
憤然と座をたつ友を見送れり誤れるともいさぎよきかな
フンゼント ザヲタツトモヲ ミオクレリ アヤマレルトモ イサギヨキカナ

『形成』(形成発行所 1956.6) 第4巻6号(通巻38号) p.6


05281
福相をもつと言はれて笑ひたり本当に幸福なのかも知れぬ
フクソウヲ モツトイハレテ ワラヒタリ ホントウニコウフク ナノカモシレヌ

『形成』(形成発行所 1956.6) 第4巻6号(通巻38号) p.6


05282
日曜も麦刈りに追はれむと言ふ友をかこみてわれら羨しみ合へり
ニチヨウモ ムギカリニオハレムト イフトモヲ カコミテワレラ トモシミアヘリ

『形成』(形成発行所 1956.7) 第4巻7号(通巻39号) p.56