05293
妹の訳しくれたるミュッセの詩薔薇匂ふ夜の机にひらく
イモウトノ　ヤクシクレタル　ミュッセノシ　バラニオフヨノ　ツクエニヒラク

05294
何気なく聞きすごせしが身にしみぬわが単衣母が縫ひゐるといふ
ナニゲナク　キキスゴセシガ　ミニシミヌ　ワガヒトヘハハガ　ヌヒヰルトイフ

05295
約束されし未来など誰ももたず鰻食べむと連れだちて出づ
ヤクソクサレシ　ミライナド　タレモモタズ　ウナギタベムト　ツレダチテイヅ

05296
毛皮のコート着てゐしを見つといふ噂聞きてよりまた幾月かたつ
ケガワノコート　キテヰシヲミツ　トイフウワサ　キキテヨリマタ　イクツキカタツ

05297
試演終へ来る君を廊に待つ何告げむとわれをよびたるならむ
レハーサル　オヘクルキミヲ　ロウニマツ　ナニツゲムトワレヲ　ヨビタルナラム

05298
汗拭きつつ戻れる君がピエロ帽ぬげばカールの髪肩に垂る
アセフキツツ　モドレルキミガ　ピエロボウ　ヌゲバカールノ　カミカタニタル

05299
嫁ぎたる友多きなかに安んじて子をうみ得るは幾人もゐず
トツギタル　トモオオキナカニ　ヤスンジテ　コヲウミエルハ　イクニンモヰズ

05300
目標の旗は遠くて見えないとわが言ひしとぞ熱に浮されてゐて
モクヒョウノ　ハタハトオクテ　ミエナイト　ワガイヒシトゾ　ネツニウカサレテヰテ

05301
ぼんやり窓に凭るる時間がほし午後からは校正刷りが届くとぞ
ボンヤリマドニ　ヨリカカルル　ジカンガホシ　ゴゴカラハコウセイ　ズリガトドクトゾ