ものの音


05302
明け方は霧深からむといふ予報聴きてより夜の思ひさまよふ
アケガタハ キリフカカラムト イフヨホウ キキテヨリヨノ オモヒサマヨフ

『形成』(形成発行所 1956.10) 第4巻10号(通巻42号) p.9


05303
送られし形見の鏡梱包を解くてのひらを映してゐたり
オクラレシ カタミノカガミ コンポウヲ トクテノヒラヲ ウツシテヰタリ

『形成』(形成発行所 1956.10) 第4巻10号(通巻42号) p.9


05304
噴水の光れる樹陰白きベンチいづこにあらむとも知らず恋ふ
フンスイノ ヒカレルコカゲ シロキベンチ イヅコニアラム トモシラズコフ

『形成』(形成発行所 1956.10) 第4巻10号(通巻42号) p.9


05305
待たれゐむ手紙なれども萩の花咲きたりとのみ書きて封閉づ
マタレヰム テガミナレドモ ハギノハナ サキタリトノミ カキテフウトヅ

『形成』(形成発行所 1956.10) 第4巻10号(通巻42号) p.9


05306
ひとり住むわが窓の遅くまで灯ることなど噂してさみしき主婦ら
ヒトリスム ワガマドノオソクマデ トモルコト ナドウワサシテ サミシキシュフラ

『形成』(形成発行所 1956.10) 第4巻10号(通巻42号) p.10


05307
伸び放題の夏草のなかひいでたる幾茎ありて穂ばらみ始む
ノビホウダイノ ナツクサノナカ ヒイデタル イクケイアリテ ホバラミハジム

『形成』(形成発行所 1956.10) 第4巻10号(通巻42号) p.10


05308
昏れぐれの蜩のこゑさまざまの角度に反響しつつしづけし
クレグレノ ヒグラシノコヱ サマザマノ カクドニハンキョウ シツツシヅケシ

『形成』(形成発行所 1956.10) 第4巻10号(通巻42号) p.10


05309
風起しつつゆくバスにゆられゐて野末に光り来む湖を待つ
カゼオコシ ツツユクバスニ ユラレヰテ ノズエニヒカリ コムウミヲマツ

『形成』(形成発行所 1956.10) 第4巻10号(通巻42号) p.10


05310
身代りという語がいざなふ感傷か今日も来て埴輪の少女を眺む
ミガワリト イウゴガイザナフ カンショウカ キョウモキテハニワノ ショウジョヲナガム

『形成』(形成発行所 1956.10) 第4巻10号(通巻42号) p.10