豫後


05311
ソ連領に遁れゆきて帰らぬ友の住所空欄となれる名簿届きぬ
ソレンリョウニ ノガレユキテカエラヌ トモノジュウショ クウラントナレル メイボトドキヌ

『形成』(形成発行所 1956.11) 第4巻11号(通巻43号) p.5


05312
メーデーの夜に会ひたるが最後なりき渡航のこと既に決めゐし友か
メーデーノ ヨニアヒタルガ サイゴナリキ トコウノコトスデニ キメヰシトモカ

『形成』(形成発行所 1956.11) 第4巻11号(通巻43号) p.5


05313
日本の秋を恋ふ日無きまでみち足りてウクライナにゐむ友と思へず
ニホンノアキヲ コフヒナキマデ ミチタリテ ウクライナニヰム トモトオモヘズ

『形成』(形成発行所 1956.11) 第4巻11号(通巻43号) p.5


05314
家具のもつ直線の規矩に安らぎてまどろみゆくや注射のあとを
カグノモツ チョクセンノキクニ ヤスラギテ マドロミユクヤ チュウシャノアトヲ

『形成』(形成発行所 1956.11) 第4巻11号(通巻43号) p.5


05315
なんの色にも染まらぬ人といふ評語受けとめて重し今日の心も
ナンノイロニモ ソマラヌヒトト イフヒョウゴ ウケトメテオモシ キョウノココロモ

『形成』(形成発行所 1956.11) 第4巻11号(通巻43号) p.5


05316
水争ひに昨夜は眠らずと言ふ君も座につきて今日の執務始まる
ミズアラソヒニ ヨベハネムラズト イフキミモ ザニツキテキョウノ シツムハジマル

『形成』(形成発行所 1956.11) 第4巻11号(通巻43号) p.5


05317
すぐ汚さるる廊下幾度でも拭く友よ老いにふさはしき職と思へず
スグヨゴサルル ロウカイクドデモ フクトモヨ オイニフサハシキ ショクトオモヘズ

『形成』(形成発行所 1956.11) 第4巻11号(通巻43号) p.5


05318
老いて働く今を歎かず出稼ぎに出されし少女期のことかなしみて言ふ
オイテハタラク イマヲナゲカズ デカセギニ ダサレシショウジョキノコト カナシミテイフ

『形成』(形成発行所 1956.11) 第4巻11号(通巻43号) p.5


05319
裏通りをひろひて歩むごとき身と静かなる日に倦むことのあり
ウラドオリヲ ヒロヒテアユム ゴトキミト シズカナルヒニ ウムコトノアリ

『形成』(形成発行所 1956.11) 第4巻11号(通巻43号) p.5


05320
ねたみ深き目に遭ひしより足音をしのばせて歩むごとき日続く
ネタミフカキ メニアヒシヨリ アシオトヲ シノバセテアユム ゴトキヒツヅク

『形成』(形成発行所 1956.11) 第4巻11号(通巻43号) p.5