風前


05321
今度来るまでに紫苑も咲かむと言ふ母を裏庭に残して帰る
コンドクル マデニシオンモ サカムトイフ ハハヲウラニワニ ノコシテカエル

『形成』(形成発行所 1956.12) 第4巻12号(通巻44号) p.5


05322
足どりの乱れて歩みゐしわれが追ひ抜きざまに人の振り向く
アシドリノ ミダレテアユミ ヰシワレガ オヒヌキザマニ ヒトノフリムク

『形成』(形成発行所 1956.12) 第4巻12号(通巻44号) p.5


05323
沖に出でていつぱいに風はらむ帆よ遠くより見ればただに静けし
オキニイデテ イツパイニカゼ ハラムホヨ トオクヨリミレバ タダニシズケシ

『形成』(形成発行所 1956.12) 第4巻12号(通巻44号) p.5


05324
警戒の私服に答ふる朝鮮訛り若き女の声にてやさし
ケイカイノ シフクニコタフル チョウセンナマリ ワカキオンナノ コエニテヤサシ

『形成』(形成発行所 1956.12) 第4巻12号(通巻44号) p.5


05325
朝鮮語をまじへて語る警官になみゐる君らつられて笑ふ
チョウセンゴヲ マジヘテカタル ケイカンニ ナミヰルキミラ ツラレテワラフ

『形成』(形成発行所 1956.12) 第4巻12号(通巻44号) p.5


05326
朝鮮語と日本語たくみに使ひ分け鋭く光る目を持つひとり
チョウセンゴト ニホンゴタクミニ ツカヒワケ スルドクヒカル メヲモツヒトリ

『形成』(形成発行所 1956.12) 第4巻12号(通巻44号) p.5


05327
日本人には出来ぬ仕事をして富むと言ひ放つ朝鮮訛りあらはに
ニホンジンニハ デキヌシゴトヲ シテトムト イヒハナツチョウセン ナマリアラハニ

『形成』(形成発行所 1956.12) 第4巻12号(通巻44号) p.5


05328
暗号のやうに朝鮮語をまじへたり一人にて訪ひ来る日の君に似ず
アンゴウノ ヤウニチョウセンゴヲ マジヘタリ ヒトリニテトヒクル ヒノキミニニズ

『形成』(形成発行所 1956.12) 第4巻12号(通巻44号) p.5


05329
韓国より帰化せし君らと川をへだて住みゐて互みに呼ぶこともなし
カンコクヨリ キカセシキミラト カワヲヘダテ スミヰテカタミニ ヨブコトモナシ

『形成』(形成発行所 1956.12) 第4巻12号(通巻44号) p.5