淡水


05330
共に学べる寮のいくとせ留学生全が縫ひくれし上衣も古る
トモニマナベル リョウノイクトセ リュウガクセイ ツエンガヌヒクレシ ルバシカモフル

『形成』(形成発行所 1957.1) 第5巻1号(通巻45号) p.5


05331
抗日の志捨てぬ兄のことも洩らしきたどたどしき日本語に
コウニチノ ココロザシステヌ アニノコトモ モラシキタドタド シキニホンゴニ

『形成』(形成発行所 1957.1) 第5巻1号(通巻45号) p.5


05332
異国に病む君をみとりき譫言の満州語たれを呼ぶとも知らず
イコクニヤム キミヲミトリキ ウハゴトノ マンシュウゴタレヲ ヨブトモシラズ

『形成』(形成発行所 1957.1) 第5巻1号(通巻45号) p.5


05333
夫に来し手紙の幾つを廻送し旅立つ思ひ整へむとす
ツマニコシ テガミノイクツヲ カイソウシ タビタツオモヒ トトノヘムトス

『形成』(形成発行所 1957.1) 第5巻1号(通巻45号) p.5


05334
魯迅祭を終へて旅立つ夜半の駅滾ちし思ひなほ鎮まらず
ロジンサイヲ オヘテタビタツ ヨワノエキ タギチシオモヒ ナホシズマラズ

『形成』(形成発行所 1957.1) 第5巻1号(通巻45号) p.5


05335
対岸にかすむ木立は志田浜か湖上にあはき虹たちながら
タイガンニ カスムコダチハ シダハマカ コジョウニアハキ ニジタチナガラ

『形成』(形成発行所 1957.1) 第5巻1号(通巻45号) p.5


05336
かの山を一つ越ゆれば若き日の父母が捨てたるふるさとの村
カノヤマヲ ヒトツコユレバ ワカキヒノ フボガステタル フルサトノムラ

『形成』(形成発行所 1957.1) 第5巻1号(通巻45号) p.6


05337
あやまたず雁はかへるや湖をおほへる夜半の狭霧をつきて
アヤマタズ カリハカヘルヤ ミズウミヲ オホヘルヨワノ サギリヲツキテ

『形成』(形成発行所 1957.1) 第5巻1号(通巻45号) p.6


05338
支線に入りて空きたる夜汽車窓ぎはに眠りゐし男不意に起きあがる
シセンニイリテ アキタルヨギシャ マドギハニ ネムリヰシオトコ フイニオキアガル

『形成』(形成発行所 1957.1) 第5巻1号(通巻45号) p.6


05339
わかちもつ遠き憶ひ出あるに似てひそかにゐたり埴輪少女と
ワカチモツ トオキオモヒデ アルニニテ ヒソカニヰタリ ハニワオトメト

『形成』(形成発行所 1957.1) 第5巻1号(通巻45号) p.6


05340
傷つけぬやうに断るすべはなきかあかりに遠き椅子占めて待つ
キズツケヌ ヤウニコトワル スベハナキカ アカリニトオキ イスシメテマツ

『形成』(形成発行所 1957.1) 第5巻1号(通巻45号) p.6


05341
遠ざかることのみを希ひ歩み来て眼先眩むごときむなしさ
トオザカル コトノミヲネガヒ アユミキテ マナサキクラム ゴトキムナシサ

『形成』(形成発行所 1957.1) 第5巻1号(通巻45号) p.6