剥落


05342
老いの身のいづくより湧くなまめきぞ増の面を著けて立ちゆく
オイノミノ イヅクヨリワク ナマメキゾ ゾウノオモテヲ ツケテタチユク

『形成』(形成発行所 1957.2) 第5巻2号(通巻46号) p.9


05343
門閥の誇り捨て得ぬ老いゆゑに再起遅るるさまも見て来つ
モンバツノ ホコリステエヌ オイユヱニ サイキオクルル サマモミテキツ

『形成』(形成発行所 1957.2) 第5巻2号(通巻46号) p.9


05344
一代限りに絶えなむ芸を惜しむさへ冒瀆のごとく今は思ほゆ
イチダイカギリニ タエナムゲイヲ オシムサヘ ボウトクノゴトク イマハオモホユ

『形成』(形成発行所 1957.2) 第5巻2号(通巻46号) p.9


05345
外したる能面を受けて佇ちつくす舞ひをさめ来し後姿さみし
ハズシタル ノウメンヲウケテ タチツクス マヒヲサメコシ ウシロデサミシ

『形成』(形成発行所 1957.2) 第5巻2号(通巻46号) p.9


05346
歩みつつ振り返る視野昏れてゐて海藻のやうに枯れ木がゆらぐ
アユミツツ フリカエルシヤ クレテヰテ カイソウノヤウニ カレキガユラグ

『形成』(形成発行所 1957.2) 第5巻2号(通巻46号) p.9


05347
わが窓に遠く雌松の大樹あり剥離は日々にひそやかにして
ワガマドニ トオクメマツノ タイジュアリ ハクリハヒビニ ヒソヤカニシテ

『形成』(形成発行所 1957.2) 第5巻2号(通巻46号) p.9


05348
遠き国の動乱のなりゆき寂しきに相場のことのみ友ら言ひ合ふ
トオキクニノ ドウランノナリユキ サビシキニ ソウバノコトノミ トモライヒアフ

『形成』(形成発行所 1957.2) 第5巻2号(通巻46号) p.9


05349
どんな時に縫ひものなどをするわれか知りゐむ母のたちゐと思ふ
ドンナトキニ ヌヒモノナドヲ スルワレカ シリヰムハハノ タチヰトオモフ

『形成』(形成発行所 1957.2) 第5巻2号(通巻46号) p.9