冬土


05350
手を汚さぬ生き方と言はれ寂しかりきミシン踏みゐてまた思ひ出づ
テヲヨゴサヌ イキカタトイハレ サビシカリキ ミシンフミヰテ マタオモヒイヅ

『形成』(形成発行所 1957.3) 第5巻3号(通巻47号) p.5


05351
父亡きあと苦しめる日も過ぎゆきぬ今年は大学を終へむ妹
チチナキアト クルシメルヒモ スギユキヌ コトシハダイガクヲ オヘムイモウト

『形成』(形成発行所 1957.3) 第5巻3号(通巻47号) p.5


05352
去年よりはこころ落ちゐるわれと思ひ父の忌の夜の夕餉に向ふ
コゾヨリハ ココロオチヰル ワレトオモヒ チチノキノヨノ ユウゲニムカフ

『形成』(形成発行所 1957.3) 第5巻3号(通巻47号) p.5


05353
更けてより月さす窓よ海ひとつ越えたるごとき目覚めは来ずや
フケテヨリ ツキサスマドヨ ウミヒトツ コエタルゴトキ メザメハコズヤ

『形成』(形成発行所 1957.3) 第5巻3号(通巻47号) p.5


05354
風あれば穂草吹かれてゆるるのみ疑ひを解かむなどと思ふな
カゼアレバ ホクサフカレテ ユルルノミ ウタガヒヲトカム ナドトオモフナ

『形成』(形成発行所 1957.3) 第5巻3号(通巻47号) p.5


05355
傍らの鏡ふたたび振り向かずものを嚙むとき顳顬うごく
カタワラノ カガミフタタビ フリムカズ モノヲカムトキ コメカミウゴク

『形成』(形成発行所 1957.3) 第5巻3号(通巻47号) p.5


05356
なづみ易き夕べよかへり見る波止場アリゾナ号にも灯はともりたり
ナヅミヤスキ ユウベヨカヘリ ミルハトバ アリゾナゴウニモ ヒハトモリタリ

『形成』(形成発行所 1957.3) 第5巻3号(通巻47号) p.5


05357
訪ね来て児らと遊ばぬかという便り分教場は雪にうづもれてゐむ
タズネキテ コラトアソバヌカト イウタヨリ ブンキョウジョウハユキニ ウヅモレテヰム

『形成』(形成発行所 1957.3) 第5巻3号(通巻47号) p.5